法人成りした年の確定申告はどうする?方法や注意点を解説
監修者: 田中卓也(田中卓也税理士事務所)
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個人事業主として事業が軌道に乗り、売上が順調に伸びてくると、法人成りを考えることもあるかもしれません。法人成りした場合、所得税の確定申告をどのように行えばよいのでしょうか。確定申告について正しい知識を持っていないと、ペナルティや税制面での負担を受ける可能性もあります。
本記事では、個人事業主が法人成りした年に、どのように確定申告を行うのか注意点を含めて解説します。
法人成りとは、個人事業主が法人を設立し、事業を法人へ引き継ぐこと
法人成りとは、個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、事業を法人へ引き継ぐことです。法人成りは、節税や資金調達、社会的な信頼性の向上という観点でメリットがあるため、個人事業主としての事業が軌道に乗り、一定以上の売上になると次のステップとして考える人も少なくありません。
なお、通常の新規法人設立と違い、法人成りの場合は個人事業主としては廃業し、資産・負債を新たに設立した法人へ引き継ぐことになります。このように、事業の連続性を持てるのが法人成りの特徴です。
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法人成りした年も確定申告が必要
法人成りした年も、廃業届を出して個人事業主としての手続きが完了するわけではなく、確定申告を行うことが必要です。法人成りした年の確定申告の方法について解説します。
法人成りすると「法人税の申告だけすれば大丈夫」と誤解している人がよくいるのですが、通常の個人事業主としての申告が法人を設立する日までは継続するため、個人事業主だった期間はその事業所得が確定申告に含まれることになります。
個人事業税の納付期限に注意する
個人事業税は、地方税法などで定められた法定業種が対象で、個人事業主の場合、その年の所得の確定申告を翌年2月16日から3月15日までに行う必要があります。
しかし、法定業種で法人成りに伴って個人事業主を廃業した場合、まず自治体が指定する期間内に都道府県税事務所に対して「個人事業税の事業開始(廃止)等申告書」を提出しなければなりません。
なお、提出期限は自治体ごとに異なりますが、東京都の場合には、廃止または変更の日から10日以内の提出というルールが定められているため注意してください。法人成りにあたっては、法人を設立する自治体ごとの提出期限を事前に確認しておくとよいでしょう。
また、通常、個人事業税は確定申告をした翌年の必要経費となりますが、法人成りなどで事業を廃止した場合には、翌年の事業所得は生じないことになります。そのため、事業廃止の年の個人事業税は課税見込み額を事業廃止の年の必要経費として計上できるので注意が必要です。
法人成りした年は、法人と個人の収入に分けて確定申告が必要
法人成りした年の確定申告は「個人事業主だった期間」と「法人として運営している期間」に分けて、2つの確定申告を行う必要があります。
例えば、7月1日に法人成りした場合、その年の1月1日~6月30日までの事業所得は個人事業主として計算し、7月1日~12月31日までは法人の所得として計算を行わなければなりません。事業収入と支出を期間ごとに分ける必要があるため、注意が必要です。
なお、法人成りした翌年以降、事業所得が生じない場合は、設立した法人で役員給与の年末調整を行うことで所得税の精算が完了するため、原則的に個人の確定申告は必要ありません。
法人としての確定申告の期限は事業年度終了日の翌日から2か月以内
法人の確定申告は確定した決算のもとに行うもので、決算日は法人によってそれぞれ違うため、個人の所得税の確定申告のように一律で決まった期限は設けられていません。個人の所得税の確定申告は原則2月16日から3月15日ですが、法人としての確定申告は決算日を基準にして定められています。
法人の確定申告の流れは下記のとおりです。
法人の確定申告の流れ
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1.当期の取引を記帳
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2.決算整理事項を確認
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3.決算書を作成
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4.申告書を提出
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5.提出書類の保存
法人としての確定申告の際、申告書の提出については「法人税申告書」を所管の税務署に提出し、「法人事業税申告書」と「法人都道府県民税申告書」を都道府県税事務所に、「法人市民税申告書」を各市区町村役場に提出するといった手順で行います(申告書の名称は各自治体で異なるほか、東京23区では東京都に一括して法人事業税や法人都民税、法人市民税を申告します)。
なお、法人の確定申告の期限は、申告期限や課税期間について特別な届け出などを行っていなければ「事業年度終了日の翌日から2か月以内」です。
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法人成りした年に確定申告を行う際の注意点は?
法人成りした年の確定申告は、個人事業主のときの確定申告とは異なる注意点があります。確定申告を正しく行わなければ法人成りのメリットを得ることができないため、しっかり注意点を押さえておきましょう。
売上と経費は法人設立日前後で区分する
法人成りした年に確定申告を行う際には、法人へと切り替わった年月日を意識し、売上や経費を明確に区分することが大切です。売上と経費について押さえるべきポイントとしては「入出金日ではなく取引があった日付で判断する」「個人と法人どちらの口座で入出金があったかは関係がない」ことがあげられます。
例えば、7月1日に法人を設立した場合、6月30日までの売上と経費は個人事業主に、7月1日以降の売上と経費は法人に計上されます。
法人設立の費用は設立日前でも法人の経費になる
法人成りをする際、法人設立にあたって発生した費用を「創立費」と呼び、支払時期が法人設立前であっても法人の経費となるため注意が必要です。法人設立用の印紙代や法人で使用する印章の購入費用などは、個人の確定申告には含めないようにしましょう。
具体的に創立費に含まれる費用は下記のとおりです。
創立費に含まれる費用
- 法人設立用の印紙代や法人で使う印章購入費、登録免許税
- 司法書士に支払う設立登記手数料
- 定款作成の代行費用
- 法人設立に向けた打ち合わせ費用(会議費、交通費などを含む)
また、法人設立から実際に事業を開始するまでのあいだにかかった、開業準備のために特別に支出する費用を「開業費」と呼びます。具体的に開業費に含まれる費用は下記のとおりです。
開業費に含まれる費用
- 広告宣伝費
- 営業開始に関わる研修費用
- 市場調査費用
- 印鑑や名刺の作成費用
- そのほか開業準備のために特別に支出する費用
法人へ引き継げる資産の種類と引き継ぐ方法は決まっている
個人事業主の資産を法人になった後も継続するには、資産を法人に引き継ぐ必要がありますが、資産の種類と引き継ぐ方法は決まっているため注意しましょう。
法人に引き継げる具体的な資産は下記のとおりです。
法人に引き継げる資産
- 商品や製品などの棚卸資産
- 事業で使う車やバイクなどの車両
- パソコンや冷暖房器具、デスクといった備品
- 内装費用や内部造作なども含んだ建物
また、引き継ぐにはいくつかの方法があります。下記の4種類のうちいずれかの方法で法人へ引き継ぎを行います。
資産を法人に引き継ぐ方法
- 新しく設立する法人に資産を売却する譲渡
- 資産を新たに設立する法人へと貸し出す賃貸
- 資産を法人設立時の資本金へとあてる現物出資
- 新たに設立する法人に資産を無償提供する贈与
手続きの複雑さや節税の観点からみると、現物出資や贈与はあまりメリットがないため、譲渡や賃貸によって資産を引き継ぐ方法が一般的です。
なお、商品などの棚卸資産を引き継ぐ場合は、引継価額を事業所得の売上高に加算するなどの処理を行います。備品などの減価償却資産を引き継ぐ場合は、譲渡所得となるため細心の注意が必要です。
また、個人事業主として金融機関などから借入金がある場合には「借入金を法人へは引き継がず個人として返済する」「借入金は個人で返済しつつ新たな借入金は法人として銀行から借りる」「借入金を法人で引き継ぐ」といったケースが想定されます。いずれの方法を取ったとしても、融資を受けている金融機関への確認は必要です。
役員報酬の確定申告についても忘れずに行う
法人成りした後に受け取った役員報酬についても、忘れずに確定申告を行う必要があるため注意が必要です。個人事業主の場合は自分に対して給与を支払うことはありませんが、法人成りした場合は、法人のお金と自身のお金を明確に区別しなければなりません。
そのため、法人成りした場合、法人設立日以前の個人事業主としての事業所得と、法人成りした後に受け取った役員報酬をもとに計算した給与所得の2種類の所得を個人として確定申告を行います。なお、給与所得については源泉徴収票を作成して確定申告書に添付することが必要です。
法人成りした年の確定申告は適切に行おう
法人成りにあたってはさまざまな手続きを行う必要があるため、取引先への周知を含めて、抜けがないように一つひとつ丁寧に行うことが大切です。もし、確定申告を忘れてしまうと延滞税や無申告加算税が発生する場合もあり、納める金額が多くかかってしまいます。確定申告の期限を事前にしっかりと確認し、期限内に手続きを行うように注意してください。
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この記事の監修者田中卓也(田中卓也税理士事務所)
税理士、CFP®
1964年東京都生まれ。中央大学商学部卒。
東京都内の税理士事務所にて13年半の勤務を経て独立・開業。
従来の記帳代行・税務相談・税務申告といった分野のみならず、事業計画の作成・サポートなどの経営相談、よくわかるキャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、多岐に渡って経営者や個人事業主のサポートに努める。一生活者の視点にたった講演活動や講師、執筆活動にも携わる。
