還付申告とは?対象者や確定申告との違い、受け取り方法などを解説
監修者:岡本匡史(税理士)
2024/02/08更新
個人事業主であっても会社員であっても、1年を通して税金を納めすぎてしまっている場合があります。そのようなときに「還付申告」を行うと、納めすぎた税金が戻ってくる可能性があります。しかし、還付申告の制度の内容や、手続きの方法がわからないという人も多いでしょう。
ここでは、還付申告の対象になる人や、確定申告や年末調整との違い、手続きの方法などについて詳しく解説します。医療費が多くかかった人や寄附をした人、住宅を購入した人などは税金が戻って来る可能性があるので、ご自身が対象になるかどうかをチェックしてみてください。
還付申告は納めすぎた税金の還付を受ける手続き
還付申告とは、納めすぎた税金の還付を受けるために行う手続きです。還付申告は義務ではありませんが、還付申告を行うことで納めすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
所得税は年間の所得額に応じて決まりますが、年間の所得に対する所得税をまとめて支払うと負担が大きいため、給与や年金を支給する際に、その支払者があらかじめ所得税を徴収する制度が採用されており、これを源泉徴収といいます。
この金額が本来納めるべき金額よりも多かった場合、還付申告を行うことで納めすぎた所得税が還付されるのです。なお、給与所得者の場合は、年末調整でも所得税の調整が行われます。
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還付申告と確定申告・年末調整の違い
還付申告、確定申告、年末調整はいずれも、1年間の所得とそれにかかる税額を計算する制度ですが、その目的と手続きの内容には大きな違いがあります。各制度の違いについて、詳しく見ていきましょう。
還付申告と確定申告の違い
還付申告と確定申告は、申告する目的が異なります。還付申告は納めすぎた税金を還付するために行う手続きです。これに対して、確定申告は1年間の所得とそれに対する税金を申告・納付するために行います。
還付申告は、納税者が既に必要以上の税金を納めている場合に限り行います。この申告は義務ではなく、行わなければ単に納めすぎた税金が戻ってこず、納税者の負担が大きくなるだけです。
一方、確定申告は、所得額と納税すべき税額を申告し、それに基づいて税金を納付する手続きです。確定申告が必要な人がこれを行わず、適切に税金を納めない場合、無申告加算税や延滞税などの税金が課される可能性があります。
ただし、還付申告と確定申告は、どちらも同じ「確定申告書」という書類を使って行います。記入する項目も基本的には同じです。つまり、還付申告と確定申告の手続き方法自体はほとんど同じですが、申告の目的と義務の有無が異なるということです。
還付申告と年末調整の違い
還付申告と年末調整は、目的と実施者が異なります。還付申告は、納めすぎた税金を還付するために、納税者本人が行う手続きです。一方、年末調整は、勤務先が給与や賞与から差し引いた源泉徴収税額と実際に納めるべき税額の差異を調整し、精算をするための手続きです。
年末調整は、年収2,000万円以下の給与所得者を対象とする制度で、勤務先は対象者全員に対して年末調整を行う義務があります。ただし、社員が複数の勤務先から給与を受けている場合、年末調整を行うのは、その社員に主たる給与を支払っている勤務先のみです。
年末調整の手続きでは、社員から集めた各種書類を基に所得控除額や税額控除額を計算し、実際の納税額を決定します。計算結果によっては、毎月の給与から徴収されていた税金が還付される場合もあれば、追加で納税が必要になる場合もあります。
ただし、年末調整ですべての控除の申告ができるわけではありません。医療費控除や寄附金控除など、一部の控除は年末調整で申告ができないため、別途還付申告が必要です。
なお、年末調整を受けた人は原則として確定申告が不要です。しかし、副業での所得が20万円超ある場合など、特定の状況では確定申告が必要となります。このとき、医療費控除などの申告も同時に行うことが可能です。
年末調整と確定申告の違いについてこちらの記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
還付申告の対象者
還付申告の対象となるのは、「確定申告の義務はないものの、還付申告をすることで納めすぎた所得税を還付してもらえる人」です。
例えば、勤務先で年末調整を受けており、副業での所得がない給与所得者が一定の条件を満たした場合、還付申告の対象となる可能性があります。ここでいう給与所得者とは、勤務先と雇用契約を結び、給与を受け取っている人を指し、雇用形態(正社員、派遣社員、アルバイトなど)は問いません。しかし、そもそも年間所得が少なく所得税の徴収がない人は、還付の対象外です。
また、給与所得者であっても年収が2,000万円を超えている場合や、副業での所得が20万円超あるなど、確定申告の義務がある場合は、還付申告ではなく確定申告を行う必要があります。
ここからは、還付申告が可能な具体例を紹介します。
医療費控除を受ける給与所得者
年末調整を受けた給与所得者のうち、医療費控除の適用を受ける人は、還付申告の対象です。
医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の合計が10万円(1年間の総所得額等が200万円未満なら総所得金額等の5%)を超える場合、超えた部分について、200万円を上限に所得控除を受けることができる制度です。納税額が減少することで、納めすぎた税金の還付を受けることができます。
また、2026年までは医療費控除の特例として、セルフメディケーション税制を利用することもできます。これは、健康の維持のために一定の取り組みを行っている人が、医師から処方される医療用医薬品のうち安全性の高いものを市販薬に切り替えたスイッチOTC医薬品などを購入した場合に利用できる控除です。1月1日から12月31日までの1年間に支払った額が1万2,000円を超えた場合、8万8,000円を上限に所得控除を受けることができます。
ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか利用できません。両方の要件に合致する人は、より控除額が多い制度を選んで申告してください。また、どちらを利用する場合も、確定申告書のほかに、医療費控除の明細書もしくはセルフメディケーション税制の明細書の作成が必要です。
医療費控除についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
雑損控除を受ける給与所得者
年末調整を受けた給与所得者のうち、雑損控除の適用を受ける人は、還付申告の対象です。雑損控除とは、災害や盗難などで一定の要件を満たす資産に損害を受けた場合に、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
対象となる損害には、震災や風水害、雪害、落雷といった自然災害のほか、火災や害虫、盗難、横領などもあります。一方で、詐欺や恐喝は対象外です。
雑損控除の金額は、下記のうちいずれか大きい方と定められています。
雑損控除の金額
-
1.(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-1年間の総所得金額等×10%
-
2.(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円
「災害関連支出の金額」とは、災害による直接的な損害額ではなく、損害に関連して支出した金額のことです。例えば、災害で壊れてしまった住居を取り壊したり撤去したりするための費用などが該当します。
雑損控除についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
寄附金控除を受ける給与所得者
年末調整を受けた給与所得者のうち、寄附金控除の適用を受ける人は、還付申告の対象です。寄附金控除とは、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して寄附を行った場合に、寄附金額から2,000円を差し引いた残りの金額を所得から控除できる制度です。寄附金控除の対象となる寄附金の額は、総所得金額等の40%が上限になります。
ただし、寄附金控除の一種である「ふるさと納税」は、寄附金額から2,000円を引いた額が所得税および住民税から控除される制度です。
ふるさと納税も還付申告が必要ですが、下記すべての項目に該当する人は、還付申告なしで寄附金控除が受けられる「ワンストップ特例制度」の利用が可能です。
ワンストップ特例制度を利用する条件
- ふるさと納税以外に確定申告の必要がないこと
- 1年間のふるさと納税を行った先が5自治体以内であること
ワンストップ特例制度を利用する場合は、ふるさと納税をした自治体宛てに申請書を提出してください。なお、ワンストップ特例制度を利用した場合、控除は翌年度の住民税から行われ、所得税の還付は受けられません。
寄付金控除についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
住宅ローン控除を受ける給与所得者
年末調整を受けた給与所得者のうち、住宅ローン控除の適用を初めて受ける人も、還付申告の対象です。住宅ローン控除とは、住宅ローンなどを利用してマイホームを新築、取得、増改築した人のうち、一定の要件を満たす人が利用できる制度です。所得税額から控除額を直接差し引く「税額控除」を受けることにより、大きな節税効果を得ることができます。
しかし、2024年以降は一般の新築住宅の控除適用が終了します。2024年1月以降は、認定長期優良住宅や認定低炭素住宅など、一定の基準を満たした物件を購入し、床面積や申告者の所得額などの条件に適合する人だけが控除を受けられるようになります。
ただし、2023年中に建築確認を受けた新築住宅や、2024年6月30日までに完成する新築住宅は、2023年までの条件で住宅ローン控除を受けることが可能です。
なお、住宅ローン控除を受けるためには、控除の適用を受ける最初の年に限り確定申告が必要です。2年目以降は、年末調整を通じて控除を申告することができます。
住宅ローン控除についてこちらの記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
予定納税をした個人事業主
予定納税を行い、実際の所得税額が予定納税額を下回った個人事業主は、確定申告を通じて納めすぎた税金の還付を受けることができます。
予定納税とは、前年の所得や税額に基づいて算出される当年の所得税の目安額を、あらかじめ納付する制度です。予定納税基準額が15万円以上の個人事業主がこの制度の対象となります。対象者には税務署から6月ごろに「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の通知書」が送付されるため、自身で計算する必要はありません。
予定納税の対象者は、予定納税額の3分の1を7月と11月にそれぞれ納付します。残額は確定申告時に納付しますが、業績の悪化などの理由で実際の所得が予測よりも低く、税金を納めすぎた場合は、確定申告により差額の還付を受けることが可能です。
還付申告の対象とならない人
還付申告は、納めすぎた税金の還付を受けるための手続きですが、すべての納税者が対象となるわけではありません。還付申告の対象とならない人について解説します。
確定申告が必要な個人事業主やフリーランス
確定申告が必要な個人事業主やフリーランス、特定の給与所得者は、還付申告ではなく確定申告を行う必要があります。医療費控除、寄附金控除、住宅ローン控除などの控除も、確定申告で手続きしましょう。
確定申告が必要な人には、個人事業主、フリーランス、年収2,000万円を超える給与所得者のほか、副業での所得が20万円超の給与所得者などが含まれます。
還付申告の対象外となる所得しかない人
還付申告の対象外となる所得しかない人は、還付申告を行うことができません。例をあげると、預貯金の利子や一時払いの保険金にかかる税金は、源泉分離課税の対象となり、還付申告の対象外です。
さらに、所得税をまったく支払っていない人も、還付される税金が存在しないため、還付申告の対象外となります。
還付申告の手続きの流れ
還付申告の手続きは、以下の流れで行います。最初に全体の流れを理解しておくと、手続きをスムースに終えることができます。
1.確定申告書を用意する
国税庁のWebページから「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」をダウンロードします。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使用する場合は、すべてオンラインで書類が作成できます。
2.還付申告に必要な書類を用意する
還付申告に必要な書類を用意します。書類の具体例については後述します。
3.確定申告書の第一表に所得額、所得控除額を記入する
確定申告書の「収入金額等」と「所得金額等」の欄を記入し、「所得から差し引かれる金額」欄に利用できる所得控除の額を記入します。
4.所得税額の計算を行う
所得税額の計算をして、結果を確定申告書に記入します。確定申告書等作成コーナーを利用する場合は自動的に計算されます。
5.確定申告書の第一表に税額控除額を記入する
住宅ローン控除などの税額控除の利用がある場合は、該当する欄に控除額を記入し、最終的な納付額を算出します。
6.確定申告書の第一表に還付先を記入する
確定申告書の「還付される税金の受取場所」に、本人名義の口座情報を記入します。
7.確定申告書の第二表を作成する
利用する控除の内容等に応じて、確定申告書の第二表に必要事項を記入します。
8.確定申告書を提出する
作成した確定申告書をe-Taxを通じてオンラインで提出するか、税務署に持参、もしくは郵送で提出します。
9.還付金を受け取る
手続きが完了し、審査が終わったら、還付金を受け取りましょう。還付金は、ゆうちょ銀行や郵便局で直接受け取るか、指定の預貯金口座への振込で受け取るかを、確定申告書上で選択できます。振込を希望する場合は、確定申告書の「還付される税金の受取場所」欄に申告者本人名義の口座情報を記入します。
なお、還付申告は、対象年の翌年1月1日から5年間にわたって行うことが可能です。確定申告の期限は通常、申告年の翌年2月16日から3月15日までですが、還付申告はこの期間外でも行うことができます。
還付申告に必要な書類
還付申告を行う際は、確定申告と同じ書類が必要です。以下の書類を用意しておきましょう。
確定申告書(所得税及び復興特別所得税の確定申告書)
還付申告には、主に確定申告書の第一表と第二表を使い、年間の所得や納税額などを申告します。第一表および第二表と併せて、分離課税の対象である所得を申請する場合は第三表を、損失申告を行う場合は第四表を使います。
書類は最寄りの税務署で配布されているほか、国税庁の「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」からダウンロードすることも可能です。また、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を活用して、オンラインで確定申告書を作成することもできます。
源泉徴収票
勤務先から受け取った給与所得の源泉徴収票や、自宅に郵送される公的年金等の源泉徴収票などを用意しておきます。源泉徴収票を提出する必要はありませんが、記載内容を確定申告書に転記する必要があります。
源泉徴収票の内容を確定申告書に転記する手順は以下の記事で解説しています。
控除の証明書
医療費控除や寄附金控除などを申告するには、申告内容を証明する書類が必要です。医療費控除なら医療費の明細書や領収書、寄附金控除なら寄附金の受領証などをそれぞれ用意しておきます。
特に初年度の住宅ローン控除の申告にはさまざまな書類が必要です。建築した住宅の種類によっても必要書類が変わるため、余裕を持って準備しておくことをおすすめします。
マイナンバーカードなどの本人確認書類
還付申告時には、マイナンバーカードや他の本人確認書類のコピーの提出が必要です。マイナンバーカードを持っている場合は、マイナンバーカードのコピーのみで還付申告が可能です。マイナンバーカードを持っていない人は、マイナンバー記載の住民票やマイナンバー通知カードのコピーと、免許証や健康保険証などの本人確認書類のコピーを両方用意する必要があります。
ただし、提出する書類は申告内容によって異なる場合があるため、必要に応じて追加書類を準備しましょう。不明点がある場合は、所轄の税務署に確認してみてください。
還付申告で納めすぎた税金の還付を受けよう
還付申告をすれば、納めすぎた税金の還付を受けることができます。還付申告は義務ではありませんが、納めすぎた税金が戻ってくるので、対象となる人は申請することをおすすめします。
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この記事の監修者岡本匡史(税理士)
「岡本匡史税理士事務所」の代表税理士。
1979年和歌山県生まれ。滋賀県立膳所高校、横浜国立大学経営学部卒業。城南信用金庫、公認会計士事務所勤務を経て、2012年に豊島区池袋にて岡本匡史税理士事務所を設立。
低価格で手厚いサポートを行うことを目標としており、特に開業前~開業5年目の法人・個人事業主の税務会計が得意。
毎年、市販の確定申告本や雑誌の監修にも携わっている。