個人事業主の経費はどこまで計上できる?範囲や上限、一覧を紹介
監修者: 奥 典久(奥典久税理士事務所)
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個人事業主として事業を運営していると、どこまでが経費として認められるのか不安に感じることはありませんか?経費を正しく把握することで、所得税や住民税の負担を軽減し、確定申告もスムーズに進められます。
本記事では、事業運営に関連する具体的な経費の範囲や上限、注意点を詳しく解説します。また、経費計上に必要な書類、経費として計上できない私的な費用、不正な経費計上による罰則についても取り上げます。本記事を参考にして、経費の理解に役立ててください。
個人事業主の経費はどこまで認められるのか?
個人事業主にとって、経費は税務処理において非常に重要な要素です。正しく経費として認められるものを計上することで、所得税や住民税の負担を軽減できます。一方、不適切な経費計上は税務署から指摘を受ける可能性もあります。では、どのようなルールに基づいて経費が判断され、どこまでが経費として認められるのか、以下に、詳しく解説します。
事業に必要不可欠なものは基本的に経費になる
個人事業主が事業を行う上で必要不可欠な支出は、基本的に全て経費として認められます。具体的には、商品やサービスを提供するために使用する原材料費、事務用品、通信費、交通費、広告宣伝費などが該当します。また、自宅を事業所として利用している場合、家賃や光熱費の一部も事業用部分に限り経費として計上可能です。
経費の上限は無し
個人事業主の経費に基本的には上限がありません。事業の継続や拡大に必要なものであれば、原則としてどのような費用も経費として認められます。
ただし、売上が少ないにもかかわらず多額の経費を計上していると、税務署からその経費が本当に事業に必要なものかどうかを確認されることがあります。したがって、常に売上とのバランスを意識しながら経費を計上することが大切です。
個人事業主が経費として計上できるもの一覧
代表的な勘定科目と経費の例は以下のとおりです。ただし、事業に必要な部分に限ります。
勘定科目 | 概要 | 経費になる具体例 |
---|---|---|
租税公課 | 税金や公的な負担金 | 個人事業税、不動産取得税、固定資産税、自動車税、登録免許税、印紙税など |
荷造運賃 | 荷物の運賃や梱包費用 | 配送料、段ボール、緩衝材、ガムテープなど |
水道光熱費 | 事務所運営に必要なエネルギー費用 | 水道代、ガス代、電気代、灯油代、石油代など |
旅費交通費 | 事業で移動・宿泊にかかる費用 | 電車代、タクシー代、航空運賃、事業での宿泊費、コインパーキング代など |
通信費 | 事業で使用する通信費用 | 切手代、はがき代、固定電話料金、携帯電話料金、インターネット料金など |
広告宣伝費 | 事業や商品の広告に関する費用 | 広告掲載料、チラシ代、ポスター代、印刷費用など |
接待交際費 | 取引先への接待や贈答にかかる費用 | 飲食代、贈答品代、取引先への慶弔費、お祝い金、ゴルフ代など |
損害保険料 | 事故や火災などの損害保険料 | 火災保険料、自動車保険料、自賠責保険料、賠償保険など |
修繕費 | 建物や機械などの修理代(減価償却資産にあたらないもの) | 店舗の修理代、機械の修理代、自動車の修理代など |
消耗品費 | 取得価額が10万円未満か使用可能期間(法定耐用年数)が1年未満の消耗品 | 文房具、伝票、名刺、作業用デスク、10万円未満のパソコンなど |
減価償却費 | 10万円以上かつ1年以上使用可能な固定資産を法定耐用年数に従って分割し計上する費用 | 建物、車、コピー機、オフィス家具、機械、10万円以上のパソコンなど |
福利厚生費 | 従業員の慰安、医療、保険などのための費用 | 従業員への慶弔費、社員旅行費、忘・新年会費、健康診断費など |
給料賃金 | 従業員への給与 | 従業員に支払う給与など |
専従者給与 | 青色事業専従者への給料 | 青色事業専従者に支払う給与など |
外注工賃 | 外部に業務を委託して支払った費用 | ホームページデザイン費、ホームページ運営費、電気工事代など |
利子割引料 | 借り入れの支払利息、分割払いの手数料 | 事業用の借入金の支払利息、手形の割引料など |
地代家賃 | 事務所などの家賃や使用料 | 家賃、礼金、駐車場代など |
貸倒金 | 取引先の経営悪化や倒産により回収が不能となった損害金額 | 回収不能となった売掛金、貸付金、未収入金など |
雑費 | 他の経費にあてはまらないもの | 引越し代、書籍代、クリーニング代、年会費、銀行の振込手数料など |
勘定科目は例示にすぎず、他にも事業に応じて必要なものを追加可能です。また、どの勘定科目に入れるかに詳細な決まりはなく、例えば事業に使ったガソリン代は「車両費」、「旅費交通費」、「燃料費」、「消耗品費」などのうち、どれにするかを自分で選ぶことができます。ただし、記帳は毎年同じ勘定科目を用いることが原則です。例えば、初年度に「地代家賃」としていた家賃を、翌年以降「賃借料」など別の勘定科目に変更すると、税務署からの指摘を受ける可能性があります。
また、自宅兼事業所の場合、家賃や水道光熱費などは全額を経費にするのではなく、事業用とプライベート用の比率に応じた「家事按分」が必要です。家事按分についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
減価償却資産の扱いには注意が必要
減価償却資産の扱いには、正確な理解が必要です。10万円以上の固定資産扱いになるものを購入した場合、その費用は一度に全額を経費として計上することはできません。購入した資産の法定耐用年数に従い、その期間にわたって経費を計上します。
減価償却については、以下の記事もご覧ください。
例えば、パソコンを購入する場合、10万円未満であれば消耗品費として一括で経費にできますが、10万円以上の場合は減価償却が必要です。ただし、青色申告者は「少額減価償却資産の特例」を活用すれば、30万円未満のパソコンを一括で経費計上できます。白色申告者の場合、この特例は使えないため、注意が必要です。
パソコン代の経費計上については、以下の記事もご覧ください。
個人事業主が経費として計上できないもの
個人事業主は事業に関連する費用を経費として計上できますが、全てが経費になるわけではありません。特に、個人的な出費と判断されるものに関しては、経費計上は認められていません。以下では、経費として計上できないもののうち、代表的なものについて詳しく解説します。
私的な飲食費
プライベートな飲食費は、経費として計上することはできません。例えば、日常的な食事や家族との外食は、事業活動とは直接関係がないため、経費として認められません。
しかし、判断が難しいのが、カフェなどで仕事をしながら飲食をした場合です。例えば、カフェで事業に関連する作業した場合、飲み物代は経費として認められる可能性があります。一方、食事代については経費として計上しないのが一般的です。このように、仕事との関連性が曖昧な状況では、慎重な判断が必要です。
より詳しく知りたい方は、以下の記事でさらに解説していますので、そちらも参考にしてください。
私的な買い物の費用
個人のプライベートな買い物も、経費として計上することはできません。例えば、趣味や娯楽のために購入する書籍や物品は、事業活動と無関係とされます。
しかし、事業に必要なものであれば経費として認められる可能性があります。例えば、フリーランスのシステムエンジニアがプログラミング関連の書籍を購入する場合、事業に関連するため経費として計上可能です。同様に、すでにプライベートで使用しているスマートフォンがあって、事業用として新たにスマートフォンを購入する場合は、その費用を経費として計上できます。このように、購入目的が事業と密接に関連する場合は、経費計上が可能です。
私的な医療費・健康管理のための費用
私的な医療費や健康管理にかかる費用も経費にはできません。例えば、病院での治療費や薬代、個人的に通うジムの会費は、事業活動とは直接関係がないため、経費として認められません。ただし、医療費が高額になる場合には、「医療費控除」を利用できる可能性があります。
個人事業主でも従業員を雇用している場合、全従業員に対する健康診断の費用や人間ドックの費用などは福利厚生費として経費計上が可能です。
医療費についての詳細は、以下の記事もご覧ください。
私的な交際費
事業活動に関連する接待や会合にかかる費用は、接待交際費として経費計上が可能です。しかし、私的な交際費に関しては認められません。例えば、プライベートの友人との飲み会、または自分自身や家族の娯楽目的での外出にかかる費用は、事業との関連がないため経費として計上することはできません。
接待交際費については、以下の記事もご覧ください。
個人の税金
個人事業主が自身で支払う所得税や住民税は、経費として計上できません。ただし、事業運営に必要な税金や公的負担金は計上可能です。例えば、印紙税や個人事業税、不動産取得税などは、事業に直接関係するものであり、経費として認められます。
個人事業税の詳細については、以下の記事もご覧ください。
生計を一にする家族への給料
個人事業主と生計を一にする家族に支払う給料は、原則として経費に計上できません。ただし、青色申告をしている事業者の場合、事前に青色事業専従者給与に関する届出書を税務署に提出し、一定の条件を満たしていれば、家族への給料が経費として認められます。
青色事業専従者給与については、以下の記事もご覧ください。
個人事業主が経費計上する際の必要書類
個人事業主が事業にかかる費用を経費計上する際に、適切な書類の保存が必須です。以下では、領収書や、それに代わる書類について詳しく解説します。
領収書
経費計上する際の基本的なルールとして、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「いくらで購入/支払ったか」を証明する書類が必要です。その要件を満たす最も一般的な書類が領収書です。領収書には、取引の日時、店舗や取引先の名称、購入者、商品やサービスの内容、金額が記載されています。したがって、取引ごとに必ず領収書を受け取り、整理して保管してください。
領収書の代わりになる書類
領収書を受け取ることが難しい場合や、紛失した場合でも、代わりになる書類が存在します。例えば、スーパーやコンビニなどで購入した場合はレシートでも経費計上が可能です。ただし、レシートは購入者名が記載されていないことが多いため、裏面に「誰が、何のために購入したか」をメモしておくことが推奨されます。また、クレジットカードでの購入時には、クレジットカードの明細書も領収書の代わりになります。
一方、電車の運賃や自動販売機での飲み物の購入など、領収書やレシートが発行されない場合もあります。そのようなケースでは、経費として認められるために、メモや出金伝票を作成し、その内容を記録しておくことが重要です。領収書同様、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「いくらで購入/支払ったか」を適切に記載してください。また、現金払いで、領収書やレシートを紛失してしまった場合の最終手段として、出金伝票を作成する方法も有効です。
さらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
電子取引の場合は電子データ
近年、領収書を電子データで受け取る取引が増えています。このような取引の場合、改正電子帳簿保存法に基づき、電子データでの領収書は、データ形式のまま保管する必要があります。この際、データが破損や紛失しないよう、適切なバックアップを行うことが重要です。
電子帳簿保存法についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
個人事業主が不正な経費計上をした場合の罰則
経費を正しく申告することは、税法上の義務です。しかし、不正な経費計上を行ってしまった場合、税務署の調査により修正を求められるだけでなく、罰則が課される可能性があります。以下では、過少申告加算税と重加算税について紹介します。
過少申告加算税
確定申告を行っても、その内容に誤りや不正があり、税務調査で発覚すると、過少申告加算税が課されることがあります。これは、申告した税金額が不足していた場合に、その差額に対して課されるペナルティです。
過少申告加算税は、新たに納めることになった税金の10%が追加で課税されます。また、新たに納める税額が当初の申告額を超える場合や、その額が50万円を超える場合には、超えた部分に対して15%の加算税が適用されます。
過少申告加算税は、税務署の調査を受ける前に修正申告すれば軽減されますし、調査の事前通知の前に自主的に修正申告をすれば課されません。経費を誤って計上してしまったことに気づいたら、早めに修正申告しましょう。
参照:国税庁「No.2026 確定申告を間違えたとき」
重加算税
不正な経費計上が悪質と判断された場合には、さらに重いペナルティとして、重加算税が課されます。悪質な経費計上には、架空の経費を計上したり、帳簿を改ざんしたりする行為が含まれます。
重加算税は、新たに納める税金の35%が追加で課税されます。無申告の場合は、無申告加算税に代えて40%が加算されます。さらに、5年以内に無申告加算税や重加算税が課されていた場合、それぞれ10%が追加で課されます。
重加算税については、以下の記事もご覧ください。
経費を正しく理解し、間違いのない確定申告を行おう
個人事業主の経費は、事業に必要な支出であれば原則として認められます。ただし、私的な出費は経費計上できません。取引ごとに、領収書やレシートを保存し、適切に確定申告を済ませましょう。不正な経費計上は、過少申告加算税や重加算税が適用されるので注意してください。
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この記事の監修者奥 典久(奥典久税理士事務所)
奥典久税理士事務所 代表
簿記専門学校で税理士講座講師として勤めたのち、会計事務所で勤務。その後独立し、奥典久税理士事務所を開業。相続(贈与)対策や事業承継コンサルティング経営、財務コンサルティングから各種セミナーなど、幅広く税理士業務に従事。