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個人事業主は扶養に入れる?要件や扶養に入るときの注意点を解説

家族の扶養に入ると、税金や社会保険でさまざまなメリットがあります。では、個人事業主であっても扶養に入ることは可能なのでしょうか。

ここでは、個人事業主が配偶者の扶養に入るための要件やメリット、扶養に入ることを検討する際の注意点について解説します。

なお、扶養には、配偶者のほか、子供や親なども要件を満たせば入れますが、本記事ではこれ以降、主に配偶者が扶養に入る場合について解説していきます。

個人事業主も配偶者の扶養に入ることは可能

個人事業主でも、所得税住民税社会保険の扶養に入ることは可能です。そもそも扶養とは、家族や親族に対して、経済的な援助をすることです。所得税や住民税、社会保険には、同一生計の親族が一定の要件を満たすと負担軽減などの優遇が受けられる制度が設けられていて、親族がその制度の適用対象になることを「扶養に入る」ということがあり、制度の適用を受けた親族は「被扶養者」と呼ばれます。

所得税や住民税において扶養に入ることとは、扶養控除や配偶者控除、配偶者特別控除などの対象になるということです。配偶者の場合、扶養に入ろうとする配偶者の年齢や住んでいる場所などにかかわらず、基本的に収入が一定額以下であれば扶養の対象になります。

一方、社会保険の扶養は、厚生年金保険や協会けんぽ、健康保険組合などに加入している給与所得者にのみ設けられている制度です。給与所得者に扶養されている親族は、扶養に入ることで、国民年金保険料や健康保険料の負担を軽減できます。

所得税・住民税の扶養でも社会保険の扶養でも、扶養対象者の要件には個人事業主であるか否かは含まれていません。そのため、個人事業主であっても親族の扶養に入ることが可能です。青色申告白色申告かも問われておらず、要件を満たしているのであれば、青色申告でも扶養に入れます。

扶養に入っていても開業することは可能

配偶者の扶養に入っている人が新たに個人事業主として開業する場合、扶養を抜ける必要はありません。扶養の要件を満たしているのであれば、開業後も配偶者控除の対象になり、配偶者の勤務先の健康保険や厚生年金保険の扶養に入ることも可能です。開業するからといって、扶養から抜けて国民健康保険や国民年金などに加入し直さないようにしましょう。

個人事業主が扶養に入れるかどうかは、主に売上から必要経費のうち直接的経費(仕入や原材料費などの原価性のある費用)を引いた金額に応じて決まりますが、開業直後に年間の売上を正確に把握するのは難しいケースもあります。開業後は、売上や利益の推移を確認してから、扶養の要件を満たすのか、それとも要件を満たさなくなったとして扶養から抜けるべきなのかを判断してください。ただし、健康保険組合については独自の基準を定めている場合があるので確認しておきましょう。

ただし、開業によって一定以上の売上を得られるようになり、扶養の要件を満たさなくなったにもかかわらず扶養に入り続けるようなことは認められません。万が一そのようなことをした場合、過去にさかのぼって税金や保険料、健康保険を利用して受診した際の医療費などの支払いを求められる可能性があります。そのため、次の項目で解説する扶養の要件について、正確に把握しておくことが重要です。

所得税・住民税の扶養に入る要件

所得税や住民税の扶養については、以下の要件をすべて満たすと配偶者控除の申告が可能で、所得税や住民税の額を抑えられます。

配偶者控除の要件

  1. 1
    配偶者控除を申告する人の合計所得金額が1,000万円以下
  2. 2
    配偶者が以下の要件をすべて満たす
    • 民法上の配偶者に該当する(内縁関係などは対象外)
    • 配偶者控除を申告する人と生計を一にしている
    • 年間の合計所得金額が48万円以下
    • 青色申告や白色申告の事業専従者ではない

配偶者が個人事業主であっても、上記の要件をすべて満たせば、個人事業主は税法上の扶養に入ることが可能です。なお、税法上の扶養は、個人事業主同士の夫婦でも利用できます。夫婦の一方の所得が1,000万円以下、もう一方の所得が48万円以下であれば、「1」に該当する人が、確定申告で配偶者控除を申告しましょう。また、所得税や住民税には「配偶者特別控除」と呼ばれる制度もあります。

扶養に入る配偶者が個人事業主の場合、以下の要件を満たす場合は、配偶者特別控除の申告が可能です。

配偶者が個人事業主の場合の配偶者特別控除の要件

  1. 1
    配偶者特別控除を申告する人の合計所得金額が1,000万円以下
  2. 2
    配偶者が以下の要件をすべて満たす
    • 民法上の配偶者に該当する(内縁関係などは対象外)
    • 配偶者控除を申告する人と生計を一にしている
    • 青色申告者や白色申告者の事業専従者ではない
    • 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下
  3. 3
    配偶者が、配偶者特別控除の適用を受けていない
  4. 4
    配偶者が、年金から「源泉控除対象配偶者がある居住者」としての源泉徴収をされていない

配偶者控除との主な違いは、配偶者の所得金額に関する要件です。48万円以下であれば配偶者控除、48万円を超えて133万円以下なら配偶者特別控除の対象となります。

そのほかの違いについては、「3」は、配偶者特別控除は配偶者控除と違って夫婦双方がお互いに控除の対象となる可能性があるため、設けられている要件です。双方で配偶者特別控除の対象になる場合でも、この要件によって、申告ができるのはどちらか一方のみとなっています。基本的に、所得額の多い方が申告すると有利です。また、配偶者特別控除には「4」の要件がありますが、配偶者が個人事業主であると同時に年金を受け取っているケースでなければ、検討する必要はありません。

なお、配偶者が個人事業主ではなく給与所得者の場合、所得48万円は年収103万円に相当します。そのため、税法上の扶養に入れるか、入れないかの境目を指して「年収103万円の壁」と呼ばれることがあります。年収103万円(所得48万円)以下であれば、本人の所得税もかかりません。一方、住民税はかかる場合があります。

社会保険の扶養に入る要件

夫婦のどちらかが給与所得者で、勤務先の社会保険に加入している場合、配偶者を社会保険の扶養に入れられる可能性があります。個人事業主の配偶者を社会保険の扶養に入れると、配偶者は国民年金保険や国民健康保険の保険料を支払う必要がなくなります。扶養に入れた会社員の負担する保険料が増えることもありません。

社会保険の扶養に入るための条件は、税法上の扶養に入るための条件とは異なります。「税法上の扶養には入れないが、社会保険の扶養には入れる」というケースもあるということです。

社会保険の扶養に入るための具体的な要件は、会社員が加入する健康保険組合ごとに定められています。以下では、協会けんぽの例を解説しますが、詳細は加入している健康保険組合で確認してください。特に個人事業主の年収の考え方などについては、健康保険組合ごとに異なる可能性があるため、十分な注意が必要です。

協会けんぽでは、社会保険の扶養に入るための要件を、以下のように「範囲」と「収入基準」の2つに分けて定めています。

被扶養者の範囲

社会保険の扶養に入るためには、原則として被扶養者になろうとする人が以下のいずれかに該当しなければなりません。

被扶養者の範囲に関する要件

  1. 1
    被保険者(健康保険に加入している会社員)との関係性が以下のいずれかで、主に被保険者に生計を維持されている
    • 事実婚を含む配偶者
    • 子供
    • 直系尊属
    • 兄弟姉妹
  2. 2
    以下に該当する人が、被保険者と同居していて主に被保険者に生計を維持されている
    • 被保険者の3親等以内の親族・姻族
    • 被保険者の事実婚の配偶者の父母や子供(事実婚の配偶者が亡くなった後も対象になる)

収入の基準

扶養に入れる人の収入の基準は、被保険者と同居しているか否かで、以下のように変わります。

被扶養者の収入に関する要件

  1. 1
    被保険者と同居している場合は以下の要件をすべて満たすこと
    • 年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金受給者と同等の状態にある場合180万円未満)
    • 年間収入が被保険者の2分の1未満(ただし、2分の1以上でも、年間収入が130万円未満で、被保険者の収入を下回っていれば状況によって扶養に入れる場合がある)
  2. 2
    被保険者と別居している場合は以下の要件をすべて満たすこと
    • 年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金受給者と同等の状態にある場合180万円未満)
    • 収入額が被保険者からの仕送りなどによる援助額よりも下回る

税法上の扶養は所得金額で判定されますが、社会保険の扶養は年間収入で判定されます。個人事業主の場合、年間の収入は売上から必要経費を引いた金額で考えるのが一般的ですが、協会けんぽにおける個人事業主の年間収入の考え方は、以下のとおりです。

協会けんぽにおける個人事業主の年間収入の考え方

自営業者の年収=年間の総収入-直接的経費額

直接的経費額とは、仕入れや原材料費など、直接売上にかかわる費用のことです。広告宣伝費のような、直接的な経費に該当しない金額は差し引くことができません。個人事業主が社会保険の扶養に入ることも可能ですが、収入に関する要件を満たしているかどうかの確認は必須です。パートやアルバイトの給与とも、考え方が異なる点に注意しましょう。

なお、パートやアルバイトなどの給与収入がある場合は、勤務先から支給された金額が130万円を超えるか否かで判断することが可能です。年収130万円を超えると扶養から外れることから、いわゆる「130万円の壁」と呼ばれています。

個人事業主が扶養に入るメリット

個人事業主が配偶者の扶養に入ることで、配偶者の所得税・住民税や個人事業主自身の社会保険料の負担を軽減できるメリットがあります。

それぞれ、以下のような負担軽減が可能です。

所得税・住民税の負担軽減

個人事業主が配偶者の扶養に入るメリットは、配偶者が配偶者控除や配偶者特別控除を利用できることです。税金の計算をする際、所得金額から一定額を控除できるため、税負担の軽減が可能です。本記事では主に所得税について解説していますが、所得税の配偶者控除や配偶者特別控除を申告することで、自動的に住民税にも控除が反映されます。

控除額は、本人と配偶者の所得額に応じて以下のとおりになります。

配偶者控除の額

納税者本人の合計所得金額 配偶者が70歳未満の場合の控除額 配偶者が70歳以上の場合の控除額
900万円以下 38万円(33万円) 48万円(38万円)
900万円超950万円以下 26万円(22万円) 32万円(26万円)
950万円超1,000万円以下 13万円(11万円) 16万円(13万円)

配偶者特別控除の額

配偶者の合計所得金額 納税者本人の合計所得金額に応じた控除額
900万円以下 900万円超950万円以下 950万円超1,000万円以下
48万円超95万円以下 38万円(33万円) 26万円(22万円) 13万円(11万円)
95万円超100万円以下 36万円(33万円) 24万円(22万円) 12万円(11万円)
100万円超105万円以下 31万円(31万円) 21万円(21万円) 11万円(11万円)
105万円超110万円以下 26万円(26万円) 18万円(18万円) 9万円(9万円)
110万円超115万円以下 21万円(21万円) 14万円(14万円) 7万円(7万円)
115万円超120万円以下 16万円(16万円) 11万円(11万円) 6万円(6万円)
120万円超125万円以下 11万円(11万円) 8万円(8万円) 4万円(4万円)
125万円超130万円以下 6万円(6万円) 4万円(4万円) 2万円(2万円)
130万円超133万円以下 3万円(3万円) 2万円(2万円) 1万円(1万円)

社会保険料の負担軽減

個人事業主が社会保険の扶養に入ると、国民年金保険や国民健康保険の保険料を支払わずに、国民年金保険料の納付期間に算入されること健康保険に加入できる点もメリットです。扶養に入ることで、配偶者の保険料が増加することもありません。将来は第3号被保険者として国民年金を受け取ることができ、健康保険の利用も可能です。

個人事業主が扶養に入るかどうかを検討する際の注意点

個人事業主が扶養に入るかどうかを検討する際には、以下の3点に注意しましょう。それぞれについて正しく理解していないと、税金や社会保険料の負担の見込みを誤ってしまう可能性があります。

年収103万円の壁は、個人事業主には関係ない

扶養に関するキーワードに「年収103万円の壁」がありますが、これはパートやアルバイトなどの給与所得者のみ該当する条件であることに注意が必要です。個人事業主が税法上の扶養に入る場合、103万円が境目になることはないため、意識する必要はありません。個人事業主の場合は、所得金額48万円を基準に考えてください。

年収130万円の壁は個人事業主も意識しなければならない

個人事業主は「年収103万円の壁」を意識する必要がない一方で、「年収130万円の壁」は意識しなければなりません。年収130万円を超えると社会保険の扶養に入れなくなるのは、個人事業主もパートやアルバイトも同様です。

この年収130万円の壁については、個人事業主の場合、基本的には売上から直接的な経費を差し引いた金額が130万円を超えるかどうかで判断しましょう。ただし、協会けんぽ以外の健康保険組合では規定が異なる場合があるため、個別確認が必要です。

扶養から外れた場合は課税所得が変わる

扶養に入っていた個人事業主が、収入増などによって扶養を外れた場合、確定申告の際の課税所得の計算が変わる点にも注意してください。

課税所得とは、売上から必要経費や青色申告特別控除を引いた所得金額から、さらに所得控除を差し引いた金額です。所得税は、基本的に課税所得に税率を掛けて算出します。

個人事業主が社会保険上の扶養から外れると、国民健康保険料や国民年金保険料を支払う必要が出てきますが、これらはすべて所得控除の1つである「社会保険料控除」の対象になるため、課税所得を計算する際に所得金額から引くことができます。忘れずに申告してください。

親子間での扶養に関する所得税・住民税の控除

所得税や住民税の扶養では、子供が親の扶養に入ったり、親が子供の扶養に入ったりすることも可能です。配偶者以外の親族を扶養に入れた場合は、所得税や住民税の「扶養控除」の対象になります。

控除額は、扶養される親族の年齢に応じて以下のとおりです。なお、16歳未満は扶養控除の対象外です。

扶養控除の控除額

扶養親族の年齢 所得税の控除額 住民税の控除額
16歳以上19歳未満 38万円 33万円
19歳以上23歳未満 63万円 45万円
23歳以上70歳未満 38万円 33万円
70歳以上 48万円 38万円
70歳以上のうち同居老親等 58万円 45万円

なお、社会保険の扶養に関しては、健康保険のみ親子間での加入が可能です。要件は配偶者の場合と変わりません。年金の扶養(第3号被保険者)は、配偶者しか入れません。

要件を正しく把握して、扶養に入るか判断しよう

個人事業主でも、要件を満たせば所得税や住民税、社会保険料の扶養に入れます。ただし、扶養に入れるかどうかを判断するためには、正確な所得の把握が必須です。確定申告書や帳簿を基に、収入要件を満たしているかどうかを確認しましょう。

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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。

著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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