純資産とは?総資産との違いや活用法をわかりやすく解説
監修者:齋藤一生(税理士)
2023/11/07更新
重要な財務諸表の1つである貸借対照表は、ある時点で会社にどれだけの資産があり、それらがどのように資金調達されたのかを表したものです。表の左側に「資産」、右側には「負債」と「純資産」が並べられており、一目で企業の財政状況がわかるようになっています。
ここでは、貸借対照表における純資産にはどのようなものがあり、総資産とどのように違うのか解説します。また、純資産に関連する経営指標の活用方法についても見ていきましょう。
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純資産とは返済義務のない資産のこと
純資産とは、誰かに返済する義務のない企業の資産のことです。貸借対照表では右側の下段に記載され、純資産の総額は「資産-負債」の額と一致します。
貸借対照表は、決算日現在での会社の資産状況が一覧で表示されている財務書類です。表の左側の「資産」は、会社の持っている資産をどのように運用しているのかについて種類別に記載しています。一方、右側の「負債」「純資産」は、その資産がどのように調達されたかを示しています。貸借対照表の左側と右側の各合計金額は、必ず一致します。
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純資産の種類
純資産は、「株主資本」と「株主資本以外」の2つに大きく分けられます。株主資本とは、株主から出資してもらった資金(資本金、資本剰余金、自己株式)や、会社が上げた利益のうち、株主に配当されずに蓄積された利益(利益剰余金)を指します。それら以外の、株主に帰属しない資産が株主資本以外(評価・換算差額等、新株予約権)になります。
ここでは、純資産の重要な勘定科目である、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、評価・換算差額等、新株予約権について見ていきましょう。
資本金
資本金とは、いわゆる「元手」のことで、会社を運用するために経営者が出資したお金と、株式と引き換えに出資者から集めた資金を合わせたものです。資本金の額は、たとえ会社が事業で成功しても、増資しない限り増えることはありません。
株主から払い込まれたお金は、総額の2分の1までは資本金とせず、資本準備金とすることができます。資本準備金とした分は資本剰余金になります。
資本剰余金
資本剰余金とは、株主から払い込まれた資金のうち、資本金として計上しなかった資産のことです。資本剰余金は、株式を発行した際に得た資金のうち、資本金に組み込まなかった「資本準備金」と、増資や減資、自社株式の取得や処分などの資本取引によって発生した剰余金を中心とする「その他資本剰余金」からなります。
自己株式(自社株)
自己株式は、会社が発行した株式のうち、株主から買い戻し、自社で保有する株式のことです。この株式は市場に出回らない株であるため、「金庫株」ともいいます。
かつては、株価の操作やインサイダー取引を防ぐため、自社の株を取得することは法的に認められていませんでした(ただし、例外としてストックオプションや株式の消却といった特定の目的のみ認められていたのです)。ところが、2001年の商法改正に伴い、無制限かつ無期限で保有することを認められました。
なお、自己株式の取得、自己株式の消却、自己株式の処分という用語を耳にしたことがあるのではないでしょうか。それぞれについて、簡単にご説明します。
- 自己株式の取得:株式会社がみずから発行した株式を取得すること。
- 自己株式の消却:市場に出回っている自社株をみずから買い取って、消滅させること。消却した分だけ、発行済株式の総数を減らすことになります。
- 自己株式の処分:会社が所有する自己株式を売却すること。この目的は資金調達をスムースにしたり、企業再編を行ったりするためです。なお、処分の方法は会社法に定められており、募集株式の発行等の手続きが必要になります。ただし、発行済の株式は消滅ではなく売却のため、発行済株式総数は変わりません。
利益剰余金
利益剰余金とは、企業が事業で得た利益のうち、株主に配当されずに積み立てられたお金のことです。利益剰余金は、会社法によって積み立てることが義務付けられている「利益準備金」と「その他利益剰余金」からなっており、その他利益剰余金は主に、企業が自主的に積み立ててきた「任意剰余金」と、企業内に留保されている「繰越利益剰余金」の2つがあります。
利益準備金は、企業の財務基盤強化のため、株主に配当する金額の10分の1を積み立てなければならないと会社法で規定されています。なぜなら、債権者にとって、唯一の担保となっている会社の財産を保全しなければならないからです。
ただし、上限額も決まっています。資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達した場合は、それ以上積み立てる必要はありません。資本準備金は資本剰余金、利益準備金は利益剰余金として扱うことがそれぞれ可能となり、企業は自由に使えるようになります。
評価・換算差額等
評価・換算差額等とは、不動産や有価証券を購入したときの価額と、現在の価額との差額(評価損益)のことで、3つに分けて表記されます。
- その他有価証券評価差額金
- 土地再評価差額金
- 繰延ヘッジ損益
なお、売買が目的または満期日が1年以内に到来する有価証券は、流動資産として扱われるので、その評価損益は記載されません。ここに記載されるのは、満期日の到来が1年超のもの、関連会社の支配を目的としているものなど、流動資産にならない「投資有価証券」の評価損益に限られます。
新株予約権
新株予約権とは、あらかじめ決められた価格や条件で新株の交付を受けられる権利のことです。企業が発行した新株予約権は、将来的に権利行使されれば資本となるものです。ただし、新株予約権は企業の株主に帰属するものではないため、株主資本以外の扱いになります。
純資産から読み解ける経営指標には何があるか
企業の安全性や収益性を分析し、経営状態を知るには、さまざまな経営指標が手掛かりになります。
純資産を用いて計算することで、下記のような経営指標を活用できます。
自己資本利益率(ROE):10%超なら投資価値のある優良企業
自己資本利益率は、当期純利益のうち新株予約権を除いた純資産に対する割合のことで、株主が投資した額に対してどれぐらいの利益を出しているかを示す重要な指標です。つまり、高ければ高いほど、投資家である株主にとっての利回りが良いとも考えられます。
下記の計算式で自己資本利益率が求められます。
自己資本利益率の算出方法
自己資本利益率(%)=当期純利益÷自己資本×100
当期純利益とは、ある一定期間における企業の収益と費用を表した財務諸表である、損益計算書の一番下に記載される、今期の企業の最終的な利益のことです。当期純利益は、一部が配当として株主に分配され、残りは利益剰余金として積み立てられ、企業の成長に必要な投資などに使われます。
これに対して自己資本とは、純資産から新株予約権と非支配株主持分を引いたものです。
自己資本利益率は、企業が自己資本を効率的に活用して利益を上げているかどうかを判断する指標です。一般的には、自己資本利益率が10%を上回れば、投資価値のある優良な企業だとされています。なお、東証プライム上場企業における2021年度の自己資本利益率の平均は、9.7%となっています。
自己資本比率:50%以上なら経営がかなり安定している
自己資本比率は、返済不要の自己資本が全体の資本調達に対してどれぐらいの割合を占めているかを表している指標のことです。これは、経営の安全性を測る重要な指標といえます。
自己資本比率の計算式
自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100
基本的には、自己資本比率が高いほど倒産しにくく、経営が安定していると判断されます。ただ、自己資本比率が低いのは、成長分野への積極的な投資が行えていないだけの場合もあるので、単純に自己資本比率は高い方がいいとも言い切れません。
目安としては、50%を超えていればかなり安定、少なくても30~40%程度は確保すると良いといわれています。
負債比率:300%以下であれば経営が比較的安定している
負債比率は、自己資本に対する負債の割合を表したもので、企業の財務上の安全性を測る重要な指標の1つといえます。その割合は、下記の計算式で求めることができます。
負債比率の算出方法
負債比率(%)=負債÷自己資本×100
100%以内であれば、自己資本ですべての負債を返済できるため、財務上の安全性は高いと判断されます。目安となる数字は、あくまでも業種や企業の成長段階によって異なりますが、この比率を知ることで財務状況を把握することができます。
例えば、急速に事業を拡大している会社は、金融機関からの借り入れを増やして投資を行うため、負債比率が数百%になっていることもあります。とはいえ、一般的に負債比率が300%以下であれば、経営が比較的安定しているとみなされます。
固定比率:100%を下回っていれば、すべて自己資本で賄っている
固定比率は、企業が保有している資産の中で、長期の資産がどんな性質の資金で購入しているかを表したものをいいます。つまり、企業が所有するビルや設備などの固定資産を、どれだけ自己資本で賄っているかです。
固定資産には、建物、土地、機械といった「有形固定資産」、特許権や商標権などの「無形固定資産」、それ以外の「投資その他の資産」に分けられます。
固定比率の算出方法
固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100
上記の計算で固定比率が100%を下回っていれば、固定資産はすべて自己資本で購入していることを意味し、財務状況が比較的安定しているといえるのです。
さらに、固定比率が100%を超えたとしても、その企業を安易に危険だと判断するのは禁物。なぜなら、実際には固定資産をすべて自己資本で賄うことは容易なことではないからです。
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固定長期適合率:100%を下回れば、財務上安定している
固定資産を購入するとき、自己資本の金額の範囲内で賄おうとすると、資金が潤沢出ない限り厳しい事情が出てきます。そこで、長期に返済する固定負債について、固定資産の購入資金にあてられるのではないかという考えから生まれたのが、固定長期適合率です。
固定長期適合率は、自己資本と固定負債に対して固定資産がどれぐらい占めているのかを示したもので、財務分析をする際、長期的に見た安全性を分析するための重要な指標です。固定長期適合率は、下記の計算式で求めることができます。
固定長期適合率の算出方法
固定長期適合率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100
固定長期適合率は低いほど良く、100%を下回っている場合は、財務上の安全性が高いと考えられます。反対に100%を超えた場合、固定負債と自己資本で賄えていないと判断できます。
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総資産は会社が保有する資産の合計、純資産は返済の義務がない資産
純資産と間違えやすいものとして総資産がありますが、両者はまったく別のものです。
総資産とは、会社が保有する資産の合計のことであり、決算時点での総資産は、貸借対照表で左側の「資産」の部に記載されているすべての合計値になります。貸借対照表では、資産は「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3種類に分けて記載されますが、これらすべての合計が総資産となります。
流動資産:1年以内に現金化できる資産
流動資産は、営業サイクルの中で発生する資産や、1年以内に現金化できる資産のことです。例えば、現金預金、受取手形、売掛金、売買目的で保有する有価証券などが該当します。
固定資産:1年を超えて保有する資産
固定資産は、1年を超えて保有する資産のことです。固定資産は、さらに有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に分けられます。それぞれどのようなものが該当するのか、例を挙げて紹介しましょう。
固定資産の勘定科目
- 有形固定資産:土地、建物、器具備品、機械装置、車両運搬具など
- 無形固定資産:ソフトウェア、営業権(のれん)、特許権、著作権、商標権、借地権など
- 投資その他の資産:投資有価証券、出資金、長期貸付金、長期前払費用、繰延税金資産など
繰延資産:流動資産、固定資産のいずれにも属さない資産
貸借対照表の「資産」の部は、流動資産と固定資産に分かれていますが、繰延資産は、そのどちらにも入らない資産のことです。
繰延資産には、会社法によるものと、税法によるものに分けられます。どちらも一時的な出費であるものの、その効果が将来にわたって継続するため、資産として計上されるのです。資産として計上した後、数年かけて償却することで費用化します。このうち、会社法によるものには、創立費や開業費、株式交付費、社債発行費、開発費の5種類があります。
会社法による繰延資産
- 創立費:会社の設立にかかった費用(定款作成費、登録免許税など)
- 開業費:会社の設立後、事業開始までにかかった費用(広告費、光熱費、接待費など)
- 株式交付費:株の発行や株の処分にかかった費用(株券の印刷費、金融機関に払う取扱手数料など)
- 社債発行費:社債を払うためにかかった費用(社債券の印刷費、金融機関に払う取扱手数料など)
- 開発費:技術開発や市場開拓にかかった費用(市場開拓や新たな組織の刷新にかかった費用など)
一方、税法上の繰延資産には、公共施設の設置や改良にかかる費用や資産を賃借するためにかかる費用などがあります。主なものは下記のとおりです。
税法上による繰延資産
- 公共的施設等の負担金:商店街などにおける共同のアーケード、日避けなど
- 資産を賃借するための権利金等:権利金や立退料など
- 役務の提供を受けるための権利金等:ノウハウの頭金など
- 広告宣伝用資産を贈与した費用:広告の看板、ネオンサインなど
- その他自己が便益を受けるための費用:スキー場のゲレンデ整備費用、出版権設定の対価など
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よくあるご質問
純資産とは?
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純資産の種類にはどんなものがある?
純資産は「株主資本」と「株主資本以外」の2つに大きく分けられます。株主資本とは、株主から出資してもらった資金や会社が上げた利益のうち、株主に配当されずに蓄積された利益を指します。それら以外の株主に帰属しない資産が株主資本以外になります。詳しくはこちらをご確認ください。
純資産と総資産の違いとは?
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