給与計算のやり方とは?手順や正しい計算方法、注意点などを解説
従業員を雇っている会社で、毎月必ず行うのが給与計算業務です。給与計算は、従業員の勤怠の取りまとめ、各種手当や社会保険料、税金の計算など、複雑な作業が数多く発生します。給与計算をスムースに行うためには、必要な作業をしっかりと把握し、手順に沿って進めていくことが大切です。
本記事では、給与計算の流れを詳しく紹介すると共に、給与計算をする際に知っておきたい注意点についても解説します。
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給与計算とは、従業員の給与を計算し正しく支払うための業務
給与計算とは、従業員に支払う給与を計算する業務を指します。具体的には、勤怠の結果に基づき給与の総支給額から各種控除額を差し引き、実際に支給する手取り額(差引支給額)を算出する一連の作業のことです。
給与の総支給額には、基本給だけではなく、割増賃金や各種手当なども含まれます。また、総支給額から差し引かれる控除として、社会保険料や税金などがあります。
給与計算を誤ってしまうと、従業員に正しく給与を支払えないだけでなく、社会保険料や税金を正しく納付することができない可能性も出てくるため、正確な作業を心掛けましょう。
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給与計算の流れ
給与計算は、勤怠情報を取りまとめて支給額を計算し、そこから控除額と差引支給額を求める流れとなります。それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
1. 勤怠情報を取りまとめる
給与計算で初めに行うのは、勤怠情報の取りまとめです。タイムカードや出勤簿を確認して、それぞれの従業員の勤怠を一覧表にしましょう。
確認すべき勤怠情報は、勤務日数と有給休暇の取得状況、欠勤日数、遅刻や早退の有無、労働時間、残業時間などです。具体的な確認項目は会社規程によっても変わりますが、代表的な例は以下のようになります。
所定労働日数 | 所定労働日数とは、給与計算期間(月末締めであれば1日~末日まで、20日締めであれば前月21日~当月20日までなど、給与の計算対象となる期間)中の、従業員が出勤しなければならない日数のことです。 同じ勤務形態で働いている従業員の所定労働日数は、基本的に全員同一です。カレンダーを見て、出勤すべき日数が何日あったのか確認しましょう。 |
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勤務日数 | 勤務日数とは、所定労働日数のうち、それぞれの従業員が実際に出勤した日数です。なお、休日出勤した日数は、勤務日数に含めません。 |
労働時間 | 給与計算期間中の、従業員ごとの労働時間を分単位で合計します。 |
有給取得日数と有給残日数 | 有給取得日数は、給与計算期間中に取得した有給休暇の日数。有給残日数は、取得済の有給休暇を反映させた、残りの年次有給休暇の日数です。 有給休暇を使うタイミングや付与されるタイミングは、従業員ごとに異なります。有給休暇の付与には、出勤率が影響してくるため、有給休暇管理簿を作成して、勤怠と合わせて管理することがおすすめです。 |
欠勤日数 | 給与計算期間中に、欠勤した日数を確認します。 |
遅刻および早退時間 | 給与計算期間中に遅刻や早退をした従業員については、遅刻、早退時間を確認して合計を算出します。 |
普通残業時間 | 給与計算期間中の、残業時間(深夜残業時間を除く)の合計を算出します。 |
深夜残業時間 | 夜22時~朝5時までの残業は「深夜残業時間」として、普通残業時間とは別にまとめます。これは、残業手当の計算方法が異なるためです。 |
休日出勤時間 |
休日出勤をした従業員については、休日の勤務時間を確認します。 休日出勤の種類
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2. 支給額の計算を行う
勤怠情報をまとめたら、次に支給額の計算を行います。基本的に毎月変わらない項目と、勤怠状況に応じて変わる項目があるので、それぞれの項目について計算して最後に合計額を算出しましょう。
基本給
基本給は昇給や減給がない限り、基本的には毎月同じ金額です。月給制であれば、前の月の基本給をそのまま転記すればよいでしょう。なお、「新入社員の初回給与」など、前月に日割りで計算をした場合は、次の月も日割りにしないよう注意が必要です。
割増賃金
従業員に時間外労働(残業)や休日労働、深夜労働をさせた場合は、割増賃金の支払いが必要です。
割増賃金は、「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」の3種類があり、種類ごとの割増率が労働基準法で定められています。従業員の勤怠状況に合わせて割増賃金の有無を確認し、必要な場合は個別に計算して基本給に加算します。
割増賃金の種類 | 対象 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 「1日8時間、週40時間」という法定労働時間を超える労働 | 月60時間まで:25%以上 月60時間超:50%以上 |
休日労働 | 「週1日または4週を通じて4日」という法定休日における労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 22時~翌5時の深夜の時間帯における労働 | 25%以上 |
なお、割増賃金は重複して発生することもあります。例えば、深夜に法定労働時間を超える労働をさせた場合は、深夜労働の割増率25%以上+時間外労働の割増率25%以上で、50%以上の割増率です。
割増賃金を求める基本の計算式は、以下になります。
割増賃金の計算式
割増賃金=1時間当たりの基礎賃金×対象の労働時間数×各種割増率
対象の労働時間数の部分に、時間外労働・休日労働・深夜労働のそれぞれの労働時間を入れ、各種割増率を掛けて算出します。
割増賃金の計算に用いる「1時間当たりの基礎賃金」は、次の計算式で求めます。
1時間当たりの基礎賃金の計算式
1時間当たりの基礎賃金=月給÷1か月当たりの平均所定労働時間
その他、残業をしても割増賃金が発生しないケースもあるため注意しましょう。残業には、法定内残業と法定外残業があります。このうち、労働基準法で定めた法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた法定外残業に対しては、上記の割増率で割増賃金を計算する必要があります。
その一方、所定労働時間を超えるものの法定労働時間を超えない残業は法定内残業となり、割増賃金は発生しません。例えば、1日の所定労働時間が7時間の労働者が、1時間の残業をしたようなケースです。このような場合は、会社が決めた割増率で残業代を計算するか、規定がないなら残業時間に応じて通常どおりの1.0倍の賃金を支払うことになります。
同様に休日出勤も、法定休日の労働に対しては35%以上の割増賃金が発生します。それ以外の休日労働にも、時間外の割増の対象になる場合がありますので注意が必要です。このように給与計算を行う際には、割増賃金の対象になるものとならないものを正しく把握することが大切です。
各種手当
賃金規程などに基づき、企業が任意で定めている手当を確認し、支給額を算出します。手当の例としては、通勤手当や家族手当、住宅手当、役職手当、資格手当、皆勤手当などがあります。
なお、手当のうち、一定額までの通勤手当や、要件を満たした出張手当などは非課税です。非課税の手当は所得税の計算にもかかわってくるため、他の手当と分けて計算することが大切です。
手当についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
3. 控除額の計算を行う
支給額の計算を終えたら、次に控除額を計算します。控除額とは給与から差し引く金額のことで、社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料および介護保険料、雇用保険料)や住民税、源泉所得税のほか、遅刻早退控除や欠勤控除といった勤怠状況に応じた控除があります。
厚生年金保険料
給与から控除される厚生年金保険料の計算式は、以下のとおりです。
厚生年金保険料の計算式
厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率÷2
厚生年金保険料は、入社時、算定時、月変、その他にも多々あるタイミングにより算定される「標準報酬月額」に、所定の保険料率を掛けて算出します。
標準報酬月額を決定するときは、まず「報酬月額」を算出します。報酬月額とは、基本給をはじめ、残業手当(見込み含む)などの各種手当を含んだ1か月の総支給額(臨時に支払われるものや3か月を超える期間ごとに受ける賞与などを除く)です。この報酬月額を、日本年金機構が公表している「保険料額表」の等級に当てはめて、該当する金額が標準報酬月額となります。
また、保険料率は2024年3月現在で18.3%です。保険料は労使折半ですから、従業員と事業主が9.15%ずつ負担することになります。
健康保険料および介護保険料
健康保険料と介護保険料の計算式は、以下のとおりです。
健康保険料の計算式
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率÷2
介護保険料の計算式
介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率÷2
健康保険料と介護保険料も、標準報酬月額に保険料率を掛けて算出します。ただし、厚生年金保険とは異なり、健康保険の標準報酬月額は50段階に等級が分かれています。
なお、保険料率は、加入している健康保険組合の種類などによって異なるため、必ず自社の保険料額表を確認してください。協会けんぽに加入している場合も、適用事業所の所在地によって保険料率が違うので注意が必要です。
40歳以上の従業員は、健康保険料と併せて介護保険料の計算も必要です。40歳未満である場合は、介護保険料の負担はありません。
なお、介護保険の被保険者は、65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられます。第1号被保険者は、原則、理由にかかわらず、要介護認定や要支援認定が決定されれば介護サービスの給付を受けることができます。
雇用保険料
給与から控除される雇用保険料は、以下の計算式で求めます。
雇用保険料の計算式
雇用保険料=月給×雇用保険料率(本人負担分)
雇用保険料は、毎月の給与額に雇用保険料率を掛けて算出しましょう。計算の根拠となる支給額には、通勤費や残業手当などの雇用保険の対象となる各種手当をすべて含みます。
また、雇用保険料率は、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3区分ごとに異なり、事業主負担分、従業員負担分がそれぞれ定められています。詳しくは厚生労働省の「雇用保険料率について」を確認してください。
いずれの業種でも、雇用保険料率は従業員に比べて事業主の負担が大きくなっています。厚生年金保険料や健康保険料のように、労使折半ではないので注意が必要です。
住民税
毎年5月中旬~下旬頃に、従業員の住民税の税額通知書が各自治体から会社に届きます。6月分の給与~翌年5月分の給与について、税額通知書に記載された住民税額を控除・納税しましょう。
源泉所得税
会社に雇用されている従業員は、毎月の給与から概算の所得税が源泉徴収(天引き)されます。これを源泉所得税といい、会社が徴収をして国に納めることになっています。概算で源泉徴収された所得税は、年間の給与の総額が確定したタイミングで年末調整を行い、実際の所得税額との過不足が精算されるしくみです。
月々の給与から徴収する源泉所得税は、従業員の社会保険料等控除後の給与等の金額と扶養親族等の数によって金額が決まります。該当の月の総支給額から、社会保険料と非課税通勤費を差し引いた金額を、国税庁が公表する「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせて源泉所得税の金額を算出しましょう。
なお、源泉徴収税額表には甲欄と乙欄があり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員は甲欄、提出していない従業員は乙欄を参照します。
一般的な従業員は甲欄に該当するので、1か所のみで勤務をしている従業員は、その会社に扶養控除等申告書を提出します(甲欄適用)。また、2か所以上の会社で勤務をする方は、そのうち1社にしか提出をすることができません。そのため、副業のない前提で、一般的な従業員は甲欄に該当し、「扶養親族等の数」に応じて定められた源泉徴収税額を確認します。
勤怠状況に応じた控除
従業員が欠勤や遅刻、早退をしたときには、賃金規程で定めた計算方法で控除額を算出します。控除額は各就業規則に定められる方法にて計算しますが、一般的には次のような計算式が多いです。
欠勤控除額の計算式
欠勤控除額=月給÷1か月当たりの平均所定労働日数(もしくはその月の所定労働日数)×欠勤日数
遅刻早退控除額の計算式
遅刻早退控除額=月給÷1か月当たりの平均所定労働時間×遅刻早退時間
いずれの場合も、「月給」を基本給だけにするのか、または一部手当を含めるのか、賃金規程により事前に定めておく必要があります。従業員によって対応を変えることはできないので、常に同じ方法で計算しましょう。
その他の控除額
その他、団体保険料や寮費など、従業員の状況や会社の規程に合わせた控除額を反映させ、最後に控除額の合計を算出します。
4. 差引支給額を求める
総支給額から控除額の合計を引いて、差引支給額を求めます。この金額が、従業員の口座に振り込んだり、従業員に手渡したりする「手取り額」となります。
差引支給額の計算式
差引支給額(手取り額)=総支給額-控除額
給与計算の注意点
給与計算におけるミスは、大きなトラブルにつながる可能性があります。給与計算をする際には、特に次のような点に注意しましょう。
情報漏えい
給与の額などは、従業員にとって非常にプライベートな情報となるため、情報漏えいに気を付ける必要があります。他の従業員や取引先、他人に情報が漏れてしまわないよう、個人情報の管理の徹底や、社内情報のアクセス制限などの対策を講じる必要があります。
計算ミス
給与計算で起こりがちな失敗が、計算ミスや転記ミスです。ミスによって正しい金額の給与が支払われないと、従業員の会社に対する信頼感が失われてしまいます。さらに、給与計算のミスは、社会保険料や税金の計算にも影響します。ミスによって徴収額が少なくなってしまった場合、後で差額を徴収して納める手間が増えてしまうでしょう。
単純なミスでも、後から修正するには労力がかかります。給与計算ソフトを導入するなどして、ミスを未然に防ぎ、業務を効率化するしくみを作るのがおすすめです。
スケジュール管理
給与計算は、毎月必ず決まった時期に行わなければならない業務のため、スケジュール管理が大切です。給与計算は毎月、給与の締め日から支払日までの期間に行います。締め日とは給与計算の基準となる期間、支払日は算出された給与を支払う、つまり従業員の口座に入金される日、または従業員に手渡される日です。締め日と支払日は決まっているため、給与計算の手順と必要な作業時間をあらかじめ計算し、スケジュールを立てておく必要があります。
思いがけないトラブルなどに備えて、余裕のあるスケジュールを立てるようにしましょう。
記録の保存
給与計算の記録は、賃金台帳に記載し保存する必要があります。各月の給与計算の履歴は、年末調整や各種手続きを行う際に必要となるため、必ず記録を残さなければなりません。
また、給与計算にかかわる書類は、一定期間の保存が義務付けられています。例えば、賃金台帳は5年間(当分の間は3年間)、扶養控除等申告書は7年間の保存が必要です。給与計算を行って終わりではなく、各種書類の適切な管理を心掛けましょう。
給与計算は計画的に正しい手順で行うことが大切
給与計算や明細書の作成、支給といった一連の手続きには、手間と時間がかかります。ギリギリになってから手続きを行おうとすると、計算のミスや給与の遅延といった問題につながる可能性があるため、スケジュールを立てて早めに取り掛かりましょう。
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