「領収書の宛名」の疑問を解決!宛名なし・上様・自分で書く…はOK?
監修者:小林祐士(税理士法人フォース)
2024/09/27更新
「領収書の宛名、どう書けばいいのだろう。間違えたらどうなるの?」領収書を発行するときに、多くの人が最初にぶつかる疑問ではないでしょうか。領収書を正しく発行することは、適切な会計処理としてはもちろん、顧客から信頼を得るためにも重要です。宛名の書き方を間違えると、顧客に迷惑をかける可能性があるからです。本記事では、領収書の宛名に関する基本からよくある疑問までを解説します。
「領収書の宛名」とは何か?
そもそも領収書の宛名とは何なのか、どういった用途で領収書が使われるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
そもそも領収書の宛名とは?
領収書とは、金銭を受け取った証拠として、金銭を受け取った人が金銭を支払った人に渡す書類のことです。
「領収書の宛名」とは、「金銭を支払った人物や組織の名前」のことです。
この宛名が正確でないと、領収書の信憑性が失われて、領収書を受け取った人が不利益を被るケースもあります。
宛名の書き方のよくあるパターン
領収書の宛名の書き方のパターンを把握しておきましょう。
宛名の書き方 | 例 |
---|---|
{個人名}様 | XX太郎 様 |
{組織名}御中 | ◯◯◯ 株式会社 御中 |
{組織名}{個人名}様 | ◯◯◯ 株式会社 XX太郎 様 |
上様 | 上様 |
空欄 | 空欄(書かない) |
「上のどれが正解?」と言えば、どれも場合によって使用可能です。
宛名の最適な書き方は、領収書を受け取った人が、その領収書をどのような用途で使うかによって変わります。
領収書の用途は、人それぞれ異なります。
対面販売や飲食業などで、相手から領収書を依頼されて宛名を書くときは、「相手の要望に応じて、依頼に従って正確に書く」のが基本となります。
その一方、郵送や商品同梱などで領収書を発送する場合には、相手の氏名、または会社・屋号などの正式名称を正確に書くようにします。
なお、領収書を適格請求書(インボイス)として発行してもらう場合、小売業や飲食店業など不特定多数を相手にする事業では、インボイスの記載を簡単にした「簡易インボイス」を発行できます。簡易インボイスは、宛名がなくてもかまいません。
領収書の用途は大きく3つ
では、領収書を受け取った人には、どのような用途があるのでしょうか。大きく3つに分けられます。
-
(1)自分がお金を支払った証拠として保管する
-
(2)勤務先などに提出して経費精算する
-
(3)帳簿書類として保存する(必要経費としての計上分など)
顧客と接していると、さまざまな宛名の書き方を指定されることがあるかもしれません。
顧客によって、領収書の用途が異なること、それぞれ異なる要件があることを知っておくと役立ちます。背景を理解していると、柔軟に対応できるからです。
領収書の用途別:適切な宛名の書き方
ここからは具体的に、適切な宛名の書き方を見ていきましょう。領収書の3つの用途別に解説します。
宛名の書き方 | |
---|---|
(1)お金を支払った証拠として保管する |
|
(2)勤務先などに提出して経費精算する |
|
(3)帳簿書類として保存する |
|
以下でそれぞれ見ていきましょう。
(1)自分がお金を支払った証拠として保管する
1つめの用途は「自分がお金を支払った証拠として保管する」です。
宛名の書き方
- 個人名・組織名・上様・空欄など、柔軟に対応可能
領収書の大きな役割は、お金を支払った人が二重請求されないようにすることです。
支払者の視点から見ると、金銭を払ったのに、相手から「払っていない」と主張されるのを防ぐために、領収書が必要となります。また、トラブル発生時に返金要求する際にも、領収書が必要です。
この用途での領収書は、将来的にトラブルが生じない限りは保管のみで、どこかへ提出されるわけではありません。
よって、領収書の宛名のルールは厳密ではなく、個人名・組織名・上様・空欄など、柔軟に対応可能といえます。
これは、コンビニやスーパーなどのレシートが、宛名の記入なしでも支払いの証拠となるのと同じと考えると、わかりやすいでしょう。
(2)勤務先などに提出して経費精算する
2つめの用途は「勤務先などに提出して経費精算する」です。
宛名の書き方
- 相手の要望に従って、間違いなく記入する
よくあるのは、会社員が、勤務先の支払い分を個人で立て替え、後で社内ルールに従って経費精算するパターンです。この場合、宛名の書き方は、それぞれの会社のルールに合わせて、正しく対応する必要があります。口頭で聞き取るだけではミスが起きやすいので、名刺やメモなど文字で受け取り、間違いなく書き写すようにします。
参考:経費精算とは?やり方や経費精算書の種類、効率化のポイントを解説
(3)帳簿書類として保存する
3つめの用途は「帳簿書類として保存する」です。
領収書を受け取る人が、事業を行っていて、会計帳簿をつけている場合が該当します。
領収書は、帳簿の証拠書類として、一定期間保存する義務があります。参考までに、以下は個人事業主の青色申告事業者の帳簿書類の保存期間です。
帳簿書類の保存期間
出典:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」より作成
領収書を受け取った人が、帳簿書類として保存する場合、宛名の書き方は以下のとおりです。
宛名の書き方
- 事業者の氏名または名称が正しく記載されていることが望ましい
- 相手の要望があれば、そのとおりに間違いなく記載する
この用途の領収書は、宛名の記載が必須という決まりはありません。宛名が空欄や「上様」と記載された領収書でも成立します(特に少額の場合)。
ただし、領収書の適切性が疑われると、税務調査などで指摘される可能性があります。領収書の金額は必要経費として計上され、所得税・住民税の減額につながります。不正な領収書は、脱税に使われることがあるのです。領収書の適切性を高めるために、正確な宛名(個人事業主の本名、屋号、会社名など)を記入してほしいという事業者は多くいます。相手から指定があれば、そのとおりに間違いなく記載しましょう。
補足:適格請求書発行事業者はインボイス制度の規定に従う
ここでひとつ、補足があります。
適格請求書発行事業者に登録している場合は、インボイス制度のガイドラインに従って、領収書を発行する必要があります。
インボイス制度による変更
2023年10月1日以降は、インボイス制度開始によって、消費税の課税事業者が仕入税額控除※1の適用を受けるためには「適格請求書」または「適格簡易請求書」が必須となりました(一般課税の場合)。
- ※1消費税の仕入税額控除とは、消費税の納税義務のある事業者が受けられる控除で、領収書を受け取った人の税負担軽減につながるものです。詳しくは「仕入税額控除とは?インボイス制度の経過措置もわかりやすく解説」にてご確認ください。
参考:適格請求書の記載事項
インボイス制度に対応した領収書を発行するうえでは、「適格請求書」と「適格簡易請求書」のどちらかの様式に合わせる必要があります。
- 適格請求書(インボイス):「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」を記載する必要がある(正確な宛名の記載が必須)
- 適格簡易請求書(簡易インボイス):宛名の記載は指定されていない(空欄でも可)
上記のように適格請求書(インボイス)に該当する領収書には、宛名は必須です。しかし、不特定多数を相手にする事業の場合、簡易インボイスを発行できるので宛名はなくてもかまいません。
不明点は税務署や税理士などの専門家にご相談ください。最寄りの相談窓口は、税についての相談窓口(国税庁)にて確認できます。
インボイスについては「インボイスお役立ち情報」にまとめていますので、こちらもあわせてご覧ください。
領収書の宛名でよくある疑問 Q&A
【Q1】「様」「御中」のつけ方は?
「様」や「御中」などの敬称のつけ方は、以下のとおりです
-
御中:会社、団体、組織の場合は「御中」をつける× ◯◯◯株式会社 様
○ ◯◯◯株式会社 御中 -
様:個人名の場合は「様」をつける× ◯◯太郎 御中
○ ◯◯太郎 様
会社名と個人名を併記する場合には、会社名に御中はつけません。個人名の最後に「様」をつけます。
× ◯◯◯株式会社 御中 ◯◯ 太郎 様
○ ◯◯◯株式会社 ◯◯ 太郎 様
すでに「様」と印刷されている既成の様式に宛名を手書きする場合、二重線で消して御中と書き直すと、よりフォーマルな印象となります。
ただ、実務上はここまでの対応はしていないケースも多く見られ、必須ではありません。パソコンで自作する場合や、「様」があらかじめ印刷されていない様式の場合は、「様」「御中」を正しく使い分けるようにしましょう。
【Q2】「上様(うえさま)」ってどういう意味?
「上様(うえさま、じょうさま)」は、領収書などの宛名に、相手の名前の代わりに書く語です。
たとえば、このような会話で登場します。
店員「領収書の宛名は、いかがしますか?」
お客様「上様でお願いします」
領収書を受け取る人の用途として、氏名の記入が必要ない場合に、よく聞くフレーズです。
「上様」を指定する人は、名前を伝える手間を省きたい人、書く手間がかからないように気遣ってくれる人、個人情報を渡すことに抵抗がある人など、さまざまなケースがあるでしょう。
「上様で」と指定されたら、「様」が印刷済の様式であれば「上」と書き入れます(上様様とはしない)。
【Q3】 前株(まえかぶ)・後株(あとかぶ)って何?
「前株で○○」「後株で○○」といった言い方も、領収書の宛名の書き方を指定するときに、よく聞かれます。
前株・後株は、株式会社の正式名称を伝えるときに、会社名の前に「株式会社」があるか、後にあるかを伝える言葉です。
- 前株の例:株式会社◯◯◯
- 後株の例:◯◯◯株式会社
「まえかぶ」「あとかぶ」という言葉を聞いたら、「株式会社」の位置を伝えていると認識して、宛名に反映しましょう。
なお、株式会社を書かない、または(株)と略せず、「株式会社」という形式で法人格を記載しましょう。
簡易的な表記となり、人によっては失礼だと受け取る人もいます。
【Q4】空欄はOK?
「宛名は空欄でいいです」と相手に言われた場合は、空欄のまま領収書を発行して問題ありません。
前述のとおり、領収書の宛名の必要性は、相手の用途次第だからです。ただし、これは飲食店や小売店などで、対面で相手から領収書の発行を求められたケースを想定しています。
領収書を郵送したり、商品に同梱したりする場合には、すでに取引関係が相手と構築されており、相手の会社名や氏名が特定されているはずです。その場合会社名や氏名を間違いなく正確に宛名に書くようにします。特に適格請求書として領収書を発行する場合は、宛名が必須なので間違いなく記載しましょう。
- 対面で相手から空欄を指定された場合 ⇒ 空欄でOK
- 領収書を郵送したり商品に同梱したりする場合 ⇒正確な会社名・氏名を記入する
【Q5】宛名が空欄や上様の領収書を断っていい?断り方は?
「宛名が空欄や上様の領収書を依頼されたけれど、違法だと思うから断りたい」
と考えている方には、宛名が空欄や上様でも(用途によっては)問題はないことを、あらためて認識してください。
それでもなお、断りたいという場合ですが、領収書の発行を断ることはできません。
民法第486条の受取証書の交付請求にて、〈弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。〉と定められているためです。
領収書の交付を請求されたら、求めに応じて、領収書を発行する義務があります。
特に適格請求書発行事業者には、適格請求書の発行を求められた場合、発行義務があります。適格請求書として領収書発行を求められたら発行をする必要があるのです。
【Q6】領収書の宛名を自分で書くのはOK?
領収書は、領収書を発行する事業者や、その従業員が作成する必要があります。
宛名の部分について、領収書を受け取る支払者などが記入するのは、文書偽造に該当するリスクがあるため、してはいけない行為です。
ついしてしまいがちなのが、対面での領収書発行時、宛名が聞き取りづらかったり、漢字が難解だったりして手こずり、ペンを相手に渡して自分で書いてもらう行為です。これは不適切となります。
このようなケースでは、領収書ではなくメモ帳に書いてもらいます。それを領収書に書き写すようにしましょう。
【Q7】宛名を書き間違えたらどうする?
宛名を書き間違えた場合は、その領収書は破棄して、新しく書き直すのが適切な対応です。
特に適格請求書発行事業者が、適格請求書、適格簡易請求書を交付した場合、これらの書類の記載事項に誤りがあったときには、書類を交付した相手に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書を交付しなければなりません。
その場合、「誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付する方法 」と「 当初に交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付する方法」 などがあります。
つまり、適格請求書として領収書を発行した場合で宛名を間違った場合は、修正した領収書の発行が必要です。対面での場合は、繰り返しになりますが、その領収書は破棄して、新しく書き直すのが適切です。
国税庁:「修正した適格請求書の交付方法」
まとめ
特に、お客様を目の前にした対面での領収書発行時には、知識がないと慌ててしまうものです。
本記事を通じて知識を身につけ、スムースに対応できるようになりましょう。
宛名以外の部分の領収書の書き方については、「【領収書の書き方】数字に付ける記号から但し書きまで詳細に解説 」もあわせてご覧ください。
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インボイスなど最新の法令にも対応していますので、安心です。
この記事の監修者小林祐士(税理士法人フォース)
東京都町田市にある東京税理士会法人登録NO.1
税理士法人フォース 代表社員
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