不動産賃貸業のための確定申告ガイド
2021/03/30更新

この記事の執筆者浦田泉

不動産賃貸業の所得金額の計算方法は、原則として「総収入金額-必要経費」とシンプルです。しかし実際のところは賃借人の出入りや家賃の未払い、契約の更新など、貸家にまつわる収入はイレギュラーな要素が結構あります。また、オーナーとしての仕事は自宅の一室で行っていて、自宅の電気や電話の一部を事業用に使っている、という方も少なくありません。そこで、正しい総収入金額の計算方法や、使うとオトクな青色申告制度や必要経費の考え方についてお話しいたします。
POINT
- 総収入金額は計上のタイミングに注意
- 合理的に按分して家事関連費を必要経費に
- 青色申告は最大65万円の特別控除などオトクが一杯!
総収入金額=返さなくてよい入金、必要経費=貸付資産にかかる費用
不動産賃貸業の総収入金額には、主に次のようなものが含まれます。
- 貸付による賃貸料収入(いわゆる家賃)、共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など
- 更新料、名義書換料、承諾料、頭金などの名目で受け取るもの(原則として受け取り後は返還しない約束になっているもの)
- 礼金、敷金や保証金などのうち返還しなくてよいもの(「敷引き」など)
いわゆる敷金や保証金のように、返還義務のあるものは、入金があっても原則として総収入金額には含みません。つまり、ざっくりいうと「返さなくていい入金を総収入金額に入れる」という感じです。
一方、必要経費とは、「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもので、貸付資産にかかる費用」のことをいいます。 必要経費には、主に次のようなものが含まれます。
- 一般的な管理費等
- 貸付資産購入のための借入金利息のうち一定のもの
- 減価償却費(建物の場合のみ。土地は減価償却できません)
- 修繕費のうち一定のもの
一般的な管理費とは、不動産管理会社への管理委託費、入居者募集の広告料、共用部分の水道光熱費、清掃費、一定の掛け捨て損害保険料、賃貸資産に係る固定資産税等、物件を見に行くための交通費、管理会社との打ち合わせ食事代など、賃貸資産にかかる諸費用が挙げられます。
「青色申告」で最大65万円の特別控除が受けられる
不動産業の所得金額の計算方法は、原則として「総収入金額-必要経費」ですが、「青色申告」を行っていると、さらに最大65万円、55万円、または10万円の青色申告特別控除を受けることができます。
青色申告とは、一定水準の帳簿を作成し、その帳簿に基づいて正しい申告をする人が所得金額の計算などについて有利な扱いを受けられる制度です。
まず、55万円の特別控除を受けるための要件は3つあり、以下を満たす必要があります。
さらに最大の65万円控除をうけるためには、55万円の特別控除の要件3つに加えて、e-Taxによる申告、もしくは電子帳簿保存が必要です。
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1.不動産所得を生ずべき「事業」を営んでいること、
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2.これらの所得に係る取引を原則として複式簿記により記帳していること、
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3.記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に提出すること、
このなかで気になるのが、「事業」を営んでいること、という条件です。不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。
ただし、建物の貸付けについては、「貸間、アパート等は10室以上を賃貸している」または「独立家屋をおおむね5棟以上賃貸している」のいずれかであれば、原則として「事業」を営んでいるものと考えられます。「事業」を営んでいるほどの規模でない場合など、55万円の特別控除を受けるための3つの条件を満たさないときは、青色申告特別控除の限度額は10万円となります。
青色申告は、原則としてその年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出することが必要となります。たとえば、2021年3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出した場合、2021年分から青色申告ができるようになります。
総収入金額に計上するタイミングに気をつけて!
総収入金額は、その計上のタイミングがポイントになります。
家賃、共益費など
契約や慣習などにより家賃等支払の日が定められている場合、家賃や共益費などは、その約定日に総収入金額として認識(計上)することになります。
つまり、賃貸住宅等に関する契約で、「翌月分(当月分)を毎月25日まで」といった形で家賃等の支払い期日に関する取り決めがなされていた場合、実際の入金の有無とは関係なく、25日になったらその家賃等の金額を総収入金額として計上しなければなりません。
賃借人に家賃滞納者が多い場合は、入金がないのに総収入金額だけがどんどん増えていく、ということになりかねませんので、注意が必要です。
更新料、名義書換料等/返還義務のない礼金、敷金等
これらの収入については、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、引渡しを必要としないものについては、契約の効力発生の日に総収入金額として認識します。実際の入金日ではありませんのでご注意ください。
合理的に区分すれば「家事関連費」も必要経費にできる
自宅の一室でオーナーの仕事をしている方などの場合、たとえば電話の通話料の中に、プライベートで使った通話料と、賃借人や管理会社との連絡など業務用に使った通話料が混在している、といったことがあるかと思います。
このように、ひとつの支出が家事上(プライベート用)と業務上の両方にかかわりがある費用のことを「家事関連費」といいます。この家事関連費は、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合、その区分できる金額については原則として必要経費とすることができます。
家事関連費で必要経費に区分するものの例として、自宅の家賃のうちオフィススペース相当分(家賃)、水道代や電気代のうち、業務相当分(水道光熱費)、電話代やインターネット利用料のうち業務相当分(通信費)などが挙げられます。
家事関連費の事業相当分の区分の仕方については、税務署に聞かれても回答できるくらい、合理的に区分することが求められます。
たとえば、家賃ならば自宅全体に占めるオフィススペースの割合分を必要経費にする、電話代やインターネット利用料ならば通話時間や通信時間から業務相当時間の割合や金額を計算するなどの方法が考えられます。
なお、青色申告者とそれ以外の者(白色申告者)では、家事関連費のうち、必要経費にできる範囲が異なります。
青色申告者の場合、平たく言うと「家事関連費のうち、事業相当額を合理的に区分できる金額」すべてを必要経費とすることができます。
これに対して、白色申告者は、「家事関連費のうち、事業相当額を合理的に区分できる金額」に加えて「業務・仕事の部分の割合がおおむね50%超の家事関連費だけが対象」という条件が加わります。つまり、白色申告者の場合、業務で使っている割合が半分以下の家事関連費は必要経費にできない、ということです。
必要経費にできる家事関連費の範囲が広い青色申告者にとっては、より有利な制度である、といえるでしょう。
不動産賃貸業の場合、きちんと記帳して青色申告を利用したり、家事関連費を合理的に区分して必要経費にしたりすることで、これまで以上に「オトク」な申告をすることができます。手間をかけた分だけオトクになるので、ぜひチャレンジしてみてください!
photo:Thinkstock / Getty Images
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この記事の執筆者浦田泉
税理士。会計事務所、コンサルティング会社を経て2003年「いずみ会計事務所」を開業。自身の起業経験から、特に女性経営者の起業、会社経営、成長戦略などのお手伝いが得意分野。また、新人の経理担当者でもすぐに使えるようになる弥生会計は、顧問先への導入、指導の実績が多数ある。
