確定申告で国民健康保険料は控除の対象になる!申告方法も併せて解説
監修者: 田中卓也(田中卓也税理士事務所)
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国民健康保険の保険料は、確定申告を行うことで控除の対象になります。企業に所属していない、個人事業主や年金受給者などの人は、国民健康保険に加入する必要があり、支払った保険料は原則として確定申告で所得控除を受けることができます。
この記事では、国民健康保険の概要や保険料の所得控除、確定申告で必要な手順などについて詳しく解説しますので、ぜひ確定申告を行う際の参考にしてください。
国民健康保険料も所得控除の対象
日本では「国民皆保険制度」によって原則としてすべての国民が公的な医療保険へ加入する必要があります。国民健康保険もその1つで、国民健康保険の加入者は国民健康保険料(自治体によっては国民健康保険税)を支払いますが、支払った保険料は、確定申告の際に所得控除を受けることができます。
国民健康保険の対象者
国民健康保険は、日本国内に住所を有する、74歳以下の人が加入を義務付けられた公的な保険制度です。国民健康保険の主な対象者は、次のような人です。
国民健康保険の主な対象者
- 個人事業主
- 社会保険に未加入の事業所に勤めている人
- 農業や漁業を営む人
- 無職の人
- 年金の給付を受けていて、一定額以上の所得のある人
- 国民健康保険の加入者と生計を一にしている配偶者またはその他親族
- 外国籍で、日本での在留期間が3か月を超える人
職場の健康保険組合に加入している会社員や、後期高齢者医療制度に加入している人、生活保護を受けている人などは対象外です。また、国民健康保険には「扶養」の考え方がないため、加入者一人ひとりが保険料を負担する必要があります。
支払った国民健康保険料は、所得控除の対象になる
支払った国民健康保険料は、所得控除の対象になります。所得控除とは、課税される所得金額を算定するにあたり、所得から一定の金額を差し引ける制度です。年末調整や確定申告をする際に所得控除を適用できれば、所得税や住民税の金額が少なくなり、節税につながります。
確定申告の所得控除には、基礎控除や社会保険料控除、扶養控除、寄付金控除(ふるさと納税など)、医療費控除など15種類があり、それぞれの要件を満たすと控除を受けることができます。国民健康保険料に関しては、社会保険料控除を受けることが可能です。
所得控除については別の記事で解説していますので、参考にしてください。
社会保険料控除で差し引かれる金額
確定申告で社会保険料控除が適用されると、所得から1年間に支払った国民健康保険料の全額を差し引くことができます。控除は、納税者(確定申告をする人)分だけでなく、納税者と生計を一にする配偶者またはその他親族が支払った社会保険料についても適用することができます。
また、国民健康保険料に関しては、年金受給者の場合は保険料が公的年金から自動的に差し引かれているケースがほとんどですが、この場合も引かれた分は所得から控除することが可能です。
控除対象となる社会保険料の種類と必要な書類
確定申告で控除の対象となる社会保険の保険料は、国民健康保険料以外にもさまざまな種類があります。控除を受ける場合は、それぞれの種類に関して、1年間に支払った金額を確定申告書に記入しなければなりません。
次に、社会保険料の種類別に、確定申告時に必要な書類や手続きなどを見ていきましょう。
国民健康保険料の場合
国民健康保険は、保険料の控除証明書が発行されないため、確定申告を行う際に証明書の添付は不要です。支払った金額は、住所のある自治体から送付される納付額確認書や納付額のお知らせ(市区町村によって名称が異なります)および、領収書や通帳の履歴などで確認ができます。また、75歳以上の人の場合は、後期高齢者医療保険料が社会保険料控除の対象になります。
国民年金保険料の場合
国民年金保険料は、日本年金機構から送付される保険料の控除証明書を確定申告の際に添付することで、社会保険料控除を適用することが可能です。国民年金保険料は、加入者全員が1か月に1万6,520円(2023年度)の支払いと決まっています。前納割引が適用されていると金額が変わりますが、通常は年20万円程度を所得から控除することができます。
厚生年金保険料の場合
厚生年金保険は、企業に所属する会社員などが加入する保険のため、加入者は保険料に関して通常は確定申告の必要はありません。ただし、勤務先の会社を年の途中で退職した場合は手続きが必要です。
退職をした会社に源泉徴収票を発行してもらい、源泉徴収票に記載してある「社会保険料の金額」に、自身が退職後に支払った国民健康保険や国民年金などを加え、確定申告の内容に含めることで所得から控除できます。
介護保険料の場合
介護保険は保険料の控除証明書がないため、住所のある自治体から送付される納付額のお知らせ(自治体によって名称が異なります)で金額を確認します。40歳から65歳未満の人で国民健康保険に加入している場合、介護保険料は国民健康保険料に含まれているため、国民健康保険料を控除すれば介護保険料の所得控除に関する手続きは不要です。
また65歳以上の人は、公的年金から差し引かれている介護保険料を控除することができます。ただし、例外として「公的年金のほかに不動産所得がある」というような場合は、普通徴収扱い(納付書払いまたは口座振替)のため注意が必要です。差し引かれた介護保険料と、納付書払いまたは口座振替した介護保険料の合計額が、社会保険料控除として所得控除の対象になります。
労働保険料の場合
労働保険は、労災保険と雇用保険の2つの保険の総称で、その2つの保険料を合わせて労働保険料といいます。企業に所属する会社員などが加入している場合、通常は保険料に関して確定申告の必要はありません。
ただし、勤務先の会社を年の途中で退職し、年内に次の就職先が決まっていない場合は確定申告が必要となります。退職をした会社に源泉徴収票を発行してもらうと、源泉徴収票に記載してある「社会保険料等の金額」内に、勤務時に差し引かれた社会保険料、厚生年金保険料が合算して記載してあるので、確定申告の内容に含めることで所得から控除が可能です。
また、労災保険に関しては、中小企業の役員や一人親方なども特別加入することができるため、その場合は支払った労災保険料を確定申告で控除する必要があります。
国民年金基金の掛金の場合
国民年金基金は、国民年金に上乗せして掛金を支払い、老後に受け取る年金額を増やすことができる制度です。主に個人事業主などが対象の制度で、掛金は所得控除の対象になります。国民年金基金連合会から控除証明書が送付されるので、確定申告の際に添付が必要です。
厚生年金基金の掛金の場合
厚生年金基金は、厚生年金に掛金を上乗せして掛金を支払い、老後に受け取る年金額を増やすことができる制度です。企業が運用する年金制度のため、企業に所属する会社員などが対象で、通常は労使折半で掛金を負担します。
通常、加入者は保険料に関して確定申告の必要はありません。しかし、勤務先の会社を年の途中で退職し、年内に次の就職先が決まっていない場合は手続きが必要です。
退職をした会社に源泉徴収票を発行してもらうと、源泉徴収票に記載してある「社会保険料等の金額」内に、勤務時に差し引かれた社会保険料、厚生年金保険料が合算して記載してあるので、確定申告の内容に含めることで所得から控除できます。
国民健康保険料の控除は確定申告が不要な場合がある
支払った国民健康保険料の所得控除を受ける場合、通常は確定申告が必要になりますが、条件によっては不要になる場合もあります。
ここからは、確定申告が必要な場合と、不要な場合を解説します。
確定申告が必要な場合
国民健康保険に加入している個人事業主などは年末調整がないため、確定申告が必要です。また企業に所属している人でも、下記のような場合は確定申告が必要になります。
短時間勤務のパートの掛け持ちなどをしている場合
パートの掛け持ちなど2か所以上で働いていて、いずれの職場も短時間勤務で社会保険の加入対象外となった場合は、年末調整ができないため確定申告で社会保険料控除を適用します。
年末調整で控除を忘れてしまった場合
1年の間に自身で支払った分の社会保険料があり、年末調整で社会保険料控除の適用を忘れてしまった場合は、確定申告をしなければ控除を受けることができません。
確定申告でしか受けられない控除を適用する場合
医療費控除や初年度の住宅ローン控除などは、確定申告でしか控除を受けることができません。この場合は、年末調整を行っていても、確定申告が必要です。
確定申告が不要な場合
勤務先の会社などで年末調整を行っている人が、生計を一にしている家族の国民健康保険料を支払っている場合などは、確定申告をする必要はありません。国民健康保険料の控除証明書を会社に提出すれば、確定申告をせず、年末調整で所得控除を受けることが可能です。
国民健康保険料に関する確定申告の手順
ここからは、確定申告で国民健康保険料の所得控除を受けるために必要な書類や、確定申告の手順を解説します。
必要書類を揃える
確定申告を行い、国民健康保険料の所得控除を受けるためには、確定申告書や本人確認書類などが必要です。
確定申告書
国民保険料の所得控除を受けるには、確定申告書の書式を入手します。入手方法は、国税庁の「確定申告書等の様式・手引き等」でダウンロードするか、最寄りの税務署に取りに行く方法などがあります。e-Tax(インターネットを介して国税関係の手続きを行えるシステム)を利用する場合は、システム上で手続きを行うことができるため、確定申告書を入手する必要はありません。
本人確認書類
国民保険料の所得控除を受けるには、本人確認書類と、個人番号の確認ができる書類も必要になります。マイナンバーカードであれば1枚で両方の確認が可能です。マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーが証明できる書類と本人確認書類のコピーがそれぞれ必要です。
なお、マイナンバーカードがない場合のマイナンバー確認書類と本人確認書類は以下になります。
マイナンバー確認書類
- マイナンバーが記載された住民票の写し・住民票記載事項証明書
- 通知カード
本人確認書類
- 運転免許証、運転経歴証明書(2012年4月1日以降に発行されたもの)
- パスポート
- 身体障害者手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 愛の手帳(療育手帳)
- 在留カード
- 特別永住者証明書
- その他、官公署から発行・発給された書類その他これに類する書類
納付額のお知らせ
自治体から届く納付額のお知らせの確認が必要です。国民健康保険料は、支払いに関する証明書が発行されないため、確定申告の際に添付する必要はありません。しかし、1年間に支払った金額を確定申告書に記入する必要があります。合計金額を確認したい場合は、納付額のお知らせや納付額確認書、領収書、通帳履歴で確認しましょう。
確定申告書の控除欄に記載をする
確定申告書を作成する際には、国民健康保険料の所得控除額を記入します。記入が必要な欄は、申告書の第一表の項目「社会保険料控除(13)」欄です。この欄には、国民健康保険料や国民年金保険料など、社会保険料控除の対象となる項目の合計金額を記入します。
確定申告書 第一表
- ※国税庁「所得税の確定申告」
また、確定申告書第二表にも「社会保険料控除(13)」欄があります。こちらは控除を受ける社会保険料の種類別に、名称や支払保険料を記載する必要がありますので、忘れないように記載をしましょう。
確定申告を作成する順序としては、まずは確定申告書第二表に、控除を受ける社会保険料の種類別に名称や支払保険料を記載し、その合計額を確定申告書第一表の「社会保険料控除(13)」欄に転記する、といったやり方のほうがミスは少なくなります。
確定申告の書き方についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
確定申告の期限
確定申告の期限は例年、申告対象となる年の翌年2月16日から3月15日までです。期限日が土日祝日に重なった場合は、翌平日が期限日になります。
提出方法は、e-Tax、郵送、税務署へ持ち込みのいずれかの方法を選択することが可能です。提出方法によって、下記のように提出期限が少し異なるため、遅れないように提出をしましょう。
提出方法別の確定申告の期限
- e-Taxの場合:3月15日23時59分まで
- 税務署へ持っていく場合:3月15日の閉庁後、次の開庁日までの間の時間外収受箱に投函
- 郵送の場合:3月15日の消印
還付または納税
確定申告後は、還付される金額がある場合、確定申告書に記入した金融機関の口座へ還付金が振り込まれます。振込日は、税務署に書類を提出したおおよそ1か月~1か月半後です。
また、所得税の納税額が足りず、追加で納税が必要となる場合の期限は、確定申告書の提出期限と同じ日程になります。振替納税の場合は日程が異なるため、国税庁の「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」を確認しましょう。
確定申告では国民健康保険料の所得控除を忘れずに申告しよう
確定申告では、支払った国民健康保険料の所得控除を受けることで、納税額が少なくなる場合があります。年に1回の手続きのため、受けられる控除があれば忘れないように申告をすることが大切です。
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この記事の監修者田中卓也(田中卓也税理士事務所)
税理士、CFP®
1964年東京都生まれ。中央大学商学部卒。
東京都内の税理士事務所にて13年半の勤務を経て独立・開業。
従来の記帳代行・税務相談・税務申告といった分野のみならず、事業計画の作成・サポートなどの経営相談、よくわかるキャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、多岐に渡って経営者や個人事業主のサポートに努める。一生活者の視点にたった講演活動や講師、執筆活動にも携わる。