ダブルワークで確定申告は必要?不要なケースも併せて解説
2022/03/01更新

この記事の監修者齋藤一生(税理士)

会社員やアルバイトとして働き、勤め先から給与を得ている人は、年末調整を勤務先が行ってくれるので、所得税の確定申告をしなくていいケースが大半です。ただし、ダブルワークをしている場合は、少し事情が変わってきます。
この記事では、ダブルワークをしている人は、どのような場合に所得税の確定申告が必要なのかご紹介します。また、確定申告の方法と注意点についても見ていきましょう。
所得税の申告には年末調整と確定申告がある
一定以上の収入を得ている人は、年末調整もしくは所得税の確定申告をして、所得税を納めます。その際に源泉徴収された税金や予定納税などで納めすぎた所得税があれば還付を受けます。
ここではまず、ダブルワークを含めた給与所得者が、どのように所得税を精算するのか見ていきましょう。
給与所得者は年末調整で所得税を精算できる
勤務先が1か所の給与所得者は、基本的に所得税の確定申告は不要となります。なぜなら、給与所得者は、原則的に所得税として納税するべき金額を、あらかじめ「源泉徴収」として毎月の給与から天引きされ、年末調整で過不足額の調整も行われることで、勤務先が適正額を代わりに納めています。すでに納めてしまっているので、改めて所得税の確定申告をして、税金を納める必要がないのです。
会社で働いていると、11月頃に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」、「給与所得者の保険料控除申告書」という書類を渡されて、提出するように求められたことはないでしょうか。近年ですと内容を報告してくださいとクラウド上で同内容を確認や申請する企業もあるでしょう。これは年に1度、毎月の給与から天引きされた金額と本来納めるべき税年額のずれを精算する「年末調整」を行うための手続きです。
本来納めるべき所得税の額は、所得から生命保険料控除や配偶者控除、扶養家族控除など、さまざまな個人の事情に合わせて「所得控除」をした上で算出されるはずですが、給与から天引きされている時点では、これらの控除は考慮されていません。
そこで、年末調整を行い、これらの細かい事情を正しく反映して納めるべき税金を再計算し、すでに納めた分と照合して、過不足を計算しているわけです。足りなければ追加で納め、納めすぎていれば返してもらうことになります。
ダブルワークの人は確定申告で正しい所得税額を算出する必要がある
所得税分が毎月給与から天引きされ、年末調整で精算されるという納税の仕組みは、ダブルワークの場合でも同じです。ただ、年末調整は1か所でしか受けられません。2か所以上で年末調整を受けると、控除が重複して正しい納税すべき金額が計算できないためです。
年末調整を受けるには、勤務先に給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出する必要があります。2か所以上から給与を受け取っている場合、金額が大きいほうに給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出するのが一般的です。
年末調整を受けないと、本来納めるべき税額と源泉徴収によって納めた金額がずれたままになってしまいます。これを調整するため、ダブルワークをしている人は、所得税の確定申告をして、すべてを合算した所得・納税額を報告し、納税するか、または払いすぎた税金を返してもらうのが基本となるのです。
ダブルワークをしていたら、絶対に確定申告は必要?
ダブルワークをしている人は、基本的には所得税の確定申告が必要です。ただし、一定の条件を満たした場合、確定申告は不要となります。ダブルワークをしている人の確定申告の要否について、下記の4つのケースを例に見ていきましょう。
ケース1 2か所以上から給与をもらっていて、1か所で年末調整を受けている
年末調整を受けていない勤務先については、本来納めるべき税額と源泉徴収によって納めた金額がずれたままなので、確定申告が必要です。
ただし、下記のどちらかに当てはまる場合は、確定申告は不要になります。
- 年末調整を受けていない勤務先の給与収入の合計金額と、年末調整をした給与を除いたそれ以外の所得金額の合計が20万円以下
- 給与収入の合計額から所得控除分(※)を引いた金額が150万円以下、かつ給与以外の所得金額の合計が20万円以下
- ※雑損控除、医療費控除、寄附金控除および基礎控除を除く
ケース2 アルバイトを掛け持ちし、年末調整を受けていない
アルバイトを2か所以上で掛け持ちし、いずれの勤め先でも年末調整を受けていない場合、所得税の確定申告が必要です。ほとんどのケースで、払いすぎた税金が返ってきます。
なお、アルバイトの給料収入をすべて足しても年103万円以下の場合は、確定申告は不要です。所得控除として、最低55万円の給与所得控除と48万円の基礎控除が認められているので、収入が103万円以下だと納めるべき所得税が0円になるためです。
しかし多くの場合、毎月の給料から源泉徴収(天引き)されて、所得税がすでに納められています。そのため、所得税の確定申告をしないと払いすぎた分の税金は返ってきません。この場合、確定申告は不要でも、所得税の確定申告をすることをおすすめします。
ケース3 2か所以上で年末調整を受けてしまった
基本的に、年末調整は1か所でしか受けられませんが、ダブルワークをしている場合、勤め先同士が連絡を取り合っているわけではありません。そのため、間違えて2か所以上に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、複数か所で年末調整を受けてしまうことはありえます。
この場合、所得控除が重複して、納めるべき税額が正しく計算されていないことになりますので、所得税の確定申告が必要です。この場合は納税不足となっていることが多いので、放置すると、本来納めるべき税を払わず滞納したことになり、延滞税や無申告課税といったペナルティが課される可能性があります。
ケース4 給与以外の副収入がある
会社勤めをしながら副業をしているような場合、副業分の収入は源泉徴収・年末調整の対象になっていないため、確定申告が必要です。
ただし、副収入の所得が20万円以下の場合は、確定申告は不要です。例えば、副業で50万円の収入を得ていても、30万円以上の経費がかかっているなら所得は20万円以下となり、確定申告は不要になります。
なお、税務署に確定申告しない場合は、20万円以下であっても、住民税の申告をする必要があるので注意してください。
ダブルワークをしている人の確定申告の時期

所得税の確定申告が必要な人は、決められた期間中に確定申告を行って、所得税の精算をしなければいけません。この期限はダブルワークの確定申告であっても同じです。
1年間の所得税の確定申告の申告・納付期間は、原則として、その翌年の2月16日~3月15日です。それぞれの日付が土曜・日曜・国民の祝日・休日の場合は、翌日に読み替えます。確定申告が必要な人が提出期限に遅れると、延滞税や無申告課税といったペナルティが課されます。
なお、払いすぎた税金を返してもらうために確定申告をする場合は、「還付申告」という扱いになります。還付申告は、所得税の確定申告の期限に関係なく、翌年の1月1日から5年間、いつでも提出できます。ただし、住民税や健康保険料(税)などは、所得をもとに算出されます。そのため申告対象年の翌年3月15日までに所得税の確定申告をしない場合、反映できないものも出てきますので、注意しましょう。
ダブルワークをしている人の確定申告の方法
ダブルワークをしている場合の所得税の確定申告提出までの、大まかな流れをご紹介します。
1. 確定申告書を準備する
確定申告書には、AとBの2つの様式があります。申告書Bは誰でも使える基本版、申告書Aは記載できる所得の種類が、「給与所得」「公的年金」「その他の雑所得」の3つに限定された、申告書Bの簡易版です。給与所得や雑所得のみの場合は申告書A、事業所得や不動産収入がある場合は申告書Bを選びましょう。
なお、申告書Aは2023年1月で廃止され、申告書Bに一本化されることが決まっているので、申告書Aを利用できるのは2022年に行う2021年(令和3年)分の所得税の確定申告までです。
申告書Aに記載する雑所得とは、「事業所得や不動産所得など9種に分類された所得に当てはまらないもの」すべてを指し、多くの場合、副業の所得はこの雑所得に該当します。事業所得と見分けがつきにくい場合がありますが、事業所得は、事業として営んだ結果得られた所得です。
例えば、クラウドソーシングで仕事をする場合、空いた時間にできそうな仕事をしたなら雑所得ですが、1日のうち相当な時間を費やし、長期間安定した収入を上げているなら事業所得に当たる可能性が高くなります。
2. 源泉徴収票や医療費のレシートなどを用意する
源泉徴収票は、税務署に提出はしませんが、所得税の確定申告書を作成する上で記載情報を転記するために必要になります。医療費控除などを受ける場合は、1年間にかかった医療費を記載する必要があるので、領収書・レシートなどを準備しておきましょう。
3. 申告書を作成して、期間内に提出する
所得税の確定申告書ができたら、本人確認書類などの必要書類を添えて税務署に提出します。提出の方法は、e-Tax、郵送、持ち込みの3つの方法があり、どの方法を選んでも構いません。
個人事業主以外(会社員や年金受給者など)は、多くの場合、スマートフォンからの確定申告が可能です。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセスし、画面の案内に沿って入力していけば、確定申告を完了できます。
なお、スマートフォンを使った確定申告には、マイナンバーカードとマイナンバーカード対応のスマートフォンのセットか、税務署で手続きすることで取得できるID・パスワードが必要になります。
- 参考
- 国税庁:確定申告書等作成コーナー
ダブルワークをしている人の確定申告の注意点
ダブルワークをしている場合、確定申告に関して気を付けたいポイントが4つあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
所得税の確定申告が不要なケースでも、申告したほうがいい場合がある
「確定申告は不要」に当たるケースでも、所得税の確定申告をしてはいけないわけではありません。
前述したように税法上、所得税の確定申告が不要でも、確定申告をすることで税金の還付が受けられる場合、逆にいえば、確定申告をしないと税金を多く納めすぎてしまうことになってしまうので注意が必要です。
例えば、アルバイトを2つ掛け持ちしているが年末調整は受けておらず、年間収入は103万円以下だった場合や、年間10万円を超える医療費を支出していて医療費控除が受けられる場合などがこれにあたります。
確定申告不要でも住民税の申告が必要な場合がある
住民税とは、道府県民税(または都民税)と市町村民税(または特別区民税)を合わせたもので、地方税の一種であり、国税である所得税とは別です。年末調整や所得税の確定申告をしている場合は、確定申告書等のデータをもとに、地方自治体が住民税の金額を算出しますので、住民税の申告は不要です。
しかし、確定申告は不要で、所得税の確定申告をしない場合でも1円でも所得があれば、住民税の申告は必要です。
住民税の申告が必要な場合は、基本的に3月15日までに申告しなければいけません。速やかに市区町村の役所に住民税の申告をしましょう。
ダブルワークを勤め先に知られたくない場合は、住民税の納付方法に注意
給与所得者が住民税を納める方法は、納税者個人が自治体に直接納付する「普通徴収」と、勤め先が毎月の給与から住民税を天引きし、自治体に納付する「特別徴収」の2種類です。特に指定しなければ、特別徴収されます。
もし、ダブルワークなどで年末調整以外に所得税の確定申告をしていると、住民税の金額が変更となるため、勤め先にダブルワークをしていることが知られてしまいます。

勤め先にダブルワークを知られたくないのであれば、所得税の確定申告や住民税を申告する際に、住民税の納付方法として「自分で納付」にチェックを入れましょう。これで給料天引きではなく、自治体から自宅に送られてくる納付書で支払う方式に切り替わり、ダブルワークが勤め先に知られる可能性は低くなります。
なお、確定申告が不要でダブルワークが20万円以下の場合でも住民税の申告が必要と言いましたが、この申告をさぼってしまうと、住民税の特別徴収税額変更通知が送られてダブルワークを会社に疑われる原因となることもあるので注意しましょう。
2022年分の確定申告からは、雑所得でも書類保管義務等が課される場合がある
2021年分の所得税の確定申告までは、雑所得には記帳や帳簿等の保存義務は課されていません。つまり、基本的にダブルワークが雑所得だった場合、帳簿をつけたり領収書などを保管したりする必要がなかったのです。
しかし、税制改正により、2022年分の確定申告(2023年に行う)からは、前々年分の雑所得の収入金額に応じて、雑所得の申告に関しても、場合によっては領収書などの保存や確定申告書提出の際の収支内訳書の添付が求められるようになりました。前々年が判断基準なので、2022年分の基準になるのは、2020年分の雑所得の収入金額です。所得金額ではなく、収入金額であることに注意しましょう。
雑所得の金額と書類の保存期間、収支内訳書の要否は、下記のように決められています。
雑所得の金額別書類保存期間と収支内訳書の要否
前々年分の雑所得 | 書類の保存 | 収支内訳書の要否 |
---|---|---|
300万円以下 | 不要 | 不要 |
300万円超1,000万円以下 | 請求書や領収書を5年間保存 | 不要 |
1,000万円超 | 請求書や領収書を5年間保存 | 確定申告時に収支内訳書の添付が必要 |
ダブルワークをしている人は確定申告が必要かどうかの確認を
ダブルワークをしている場合、基本的に所得税の確定申告が必要ですが、一定の条件を満たせば不要なケースもあります。ただ、たとえ不要なケースでも、確定申告をすることで払いすぎた税金が返ってくることもあります。
必要かどうか、もしくはしたほうがいいかどうかを確かめて、期限に遅れないように確定申告を行ってください。
photo:PIXTA
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この記事の監修者齋藤一生(税理士)
東京税理士会渋谷支部所属。1981年、神奈川県厚木市生まれ。明治大学商学部卒。
決算書作成、確定申告から、起業(独立開業・会社設立)、創業融資(制度融資など)、税務調査までサポート。特に副業関連の税務相談を得意としており、副業の確定申告、税金について解説した「副業起業塾 」も運営しています。
